AIが問い直す:2点のファン・エイク疑惑
AI分析はフィラデルフィア美術館とトリノ王立博物館の署名なし作品に手がかりを提示し、来歴検証や専門家との協働でさらに真相に近づく期待が高まっています。
AIが浮かび上がらせた新たな疑問
フィラデルフィア美術館とトリノ王立博物館が所蔵する、署名のない2点の「聖フランチェスコ・アシジの受難」。外見は非常に似ていますが、署名は見当たりません。ここにAIによる筆致解析が加わり、作品の作者が誰なのかという古くて新しい謎に、再び光が当たっています。
attributionとprovenanceとは何か
ここで用語を簡単に説明します。attribution(アトリビューション)は作品の作者性の特定のことです。provenance(来歴)は作品がどのように伝わってきたかを示す記録です。どちらも鑑定では重要な柱になります。
AIは何を示したのか
今回のAI分析は、筆致の再現性を検証する手がかりを示しました。筆致とは筆の運びや細部の痕跡で、いわば画家の“指紋”のようなものです。AIは一定の類似点を確認した一方で、決定的な一致は提示できませんでした。つまり、AIは有力な手がかりを与えたが、単独で最終結論を出せるほどには至らなかったのです。
なぜ決定できなかったのか
理由は単純ではありません。学習データの偏り、画像の保存状態、古い修復の影響などが解析を難しくしました。さらに筆致の検出には限界があり、AIの結果は補助的な情報と考えるのが現実的です。例えるなら、AIは事件現場で見つかった新しい指紋を示した探偵のような存在です。しかしその指紋だけで犯人を断定することはできません。
伝統的鑑定との協働が鍵
美術史の専門家による来歴検証や技術的分析(絵具やキャンバスの科学的検査)と、AI解析を組み合わせることが重要です。複数の独立した機関による再検証があれば、再現性と信頼性は高まります。AIは補助線を引き、専門家はその線を元に細部を詰める。最終的な判断は両者の協働でこそ強固になります。
今後に期待すること
今後は来歴資料の公開や追加の科学分析、専門家間の公開討論が望まれます。透明性の高い情報共有が、誤解や憶測を減らします。また、AI研究側も美術史の専門家と協力し、解釈性の向上を図ることが重要です。
結びにかえて
現時点で署名なしの2点が確実にファン・エイク作と断定されたわけではありません。しかしAIが示した手がかりは、新しい検証の出発点になり得ます。鑑定は一つの技術だけで完結するものではありません。AIと人間の知見が組み合わさって、初めて真相に近づけるのです。読者の皆様も、この議論の行方にぜひご注目ください。