「無監視で使える」はわずか9%。でもAIは広く使われている

驚きの数字です。BairesDevの調査では、AIが生成したコードを人間の監督なしで運用できると答えた開発者はわずか9%にとどまりました。一方で、AI支援コーディングを実際に使っている開発者は92%。道具としては広がっているのに、完全に「任せる」段階にはまだ達していない――そんな二面性が浮かび上がります。

想像してみてください。AIは電動ドライバーのようなものです。作業は速くなりますが、ねじを締める位置や強さを人が確認しないと、最後には不具合が出ることがあります。開発現場ではまさに同じ状況が起きています。

調査のポイント

  • 対象:92件のソフトウェア案件、501人の開発者、19人のPM
  • AI支援コーディング利用率:92%(Q3 2025時点)
  • 無監視で運用可能と回答した開発者:9%
  • AI利用による平均の工数削減は週あたり7.3時間

この数字からは、利便性と慎重さが同居する現場の空気が見えます。

なぜ無監視運用が進まないのか

BairesDevのCTO、Justice Erolinは端的に言います。**「AIは人間の監督を置き換えない」**と。

ここでひとつ専門用語を補足します。コンテキストウィンドウとは、AIが一度に扱える情報の範囲のことです。これが狭いと、システム全体を跨いだ知識保持や推論に限界が出ます。

調査でも多くの回答者が、AI生成コードの検証やセキュリティ確認は依然必要だと答えています。AIがありがちな前提の誤りやセキュリティの抜け穴を見落とす可能性は現実的なリスクです。利便性が上がるほど、見落としのコストも上がる。そのため、監督と検証は不可欠だという結論になります。

仕事の中身はどう変わるか:設計やアーキテクチャへシフト

上級開発者の多くは、ルーティンなコーディングが減ることで設計やアーキテクチャに割く時間が増えると予想しています。

現状の時間配分は次の通りです。

  • コーディング:48%
  • デバッグ:42%
  • ドキュメント作成:35%
  • 「創造的な問題解決に主に集中」していると答えた人:19%

つまり、設計寄りの仕事に移りたいという意欲は高い一方で、実際の移行には段階的な変化とスキルの再編が必要です。企業はそれを見越した研修や役割定義を進める必要があります。

個人レベルでは、幅広い知見と深い専門性を兼ね備えた**“T字型エンジニア”**が強みになります。T字型とは、横幅のある広い知識と一つの縦に深い専門領域を持つことを指します。

入門層への影響と長期リスク

調査で58%が入門的業務が減ると予測し、63%が新しい職種の出現を見込んでいます。短期的には現場の作業が効率化され、人手需要が変わるでしょう。

しかしErolinはこう警告します。ジュニア層の採用や育成が停滞すると、上級者が引退したときに人材が枯渇するリスクがあると。これは苗木を植えずに森を育てるようなものです。今は木が育って見えるかもしれませんが、次世代の苗木がなければ将来の森は薄くなります。

対策としては、入門者向けの実務機会を単純に削るのではなく、**AIを使った実務訓練や段階的なOJT(On-the-Job Training)**を取り入れることが重要です。監督者付きの実践で学ばせる仕組みが求められます。

企業と個人が取るべき現実的対応

プロジェクトマネージャーの63%が、開発者に対するAI、クラウド、セキュリティの追加研修が必要になると答えています。

具体的な対応例を挙げます。

  • 検証プロセスの整備:自動生成コードのレビューとテストを必須化する
  • 監督体制の確立:AIの出力を二重チェックする運用ルールを作る
  • 研修投資:設計力やセキュリティ知識を強化する教育を実施
  • 採用・キャリア設計:役割再定義を踏まえた育成計画を策定する

こうした取り組みを並行して行うことで、AIの利便性を安全に取り込めます。

結論:便利さの裏にある検証と育成の課題

AIは既に生産性を押し上げています。ツールとしての効果は明白です。ですが、無監視で任せられる段階には慎重さが残る。短期的には効率化が進み、上級者の役割は設計・戦略寄りに変わります。

同時に、入門層の機会減少や育成の断絶という長期的リスクにも備える必要があります。企業も個人も、利便性を享受しつつ検証体制と教育を同時に強化する。そのバランスが、AI時代の持続可能な開発組織を作る鍵になります。

最後にひと言。AIは強力な道具です。使いこなすには技術と責任が必要です。道具を持つ手を、決して緩めないでください。