裁判で飛び出した“AIの言い訳”に驚かないでください

法廷に提出された書類から、AIが生成したとみられる偽の引用や出典が見つかりました。米メディアArs Technicaが報じたところでは、弁護士が口にしたとされる「言い訳」が話題になっています。まずは事実と報道の範囲を押さえておきましょう。報道は複数の事例を紹介していますが、個々の裁判記録まで含めた確定的な結論は示されていません。公的記録での確認が必要です。

出た言い訳――思わず笑ってしまうが重い

報道で取り上げられた代表的なフレーズは次の4つです。

  • “I got hacked(ハッキングされた)”
  • “I lost my login(ログイン情報を失った)”
  • “It was a rough draft(下書きだった)”
  • “Toggling windows is hard(ウィンドウ切替が難しい)”

どれも一瞬「あるある」と感じる言葉です。ですが、裁判書類に虚偽やでたらめな出典が混じるのは笑い事では済みません。

なぜ問題になるのか

司法は事実と証拠に基づいて判断します。出典や引用が信頼できないと、事実認定が誤る危険があります。イメージすると、司法という精密機械に砂が入り込むようなものです。歯車が狂えば当事者の公平性が損なわれます。

さらに、相手方や裁判所が一件ずつ出典を確認する負担が増えます。手続きの遅延やコスト増はもちろん、訂正や再審理などの追加手続きが生じることも考えられます。

過去の偽造とどう違うか

AI生成の偽情報は、短時間で大量に、しかも見た目が本物そっくりに作れます。従来の偽造は“手作業の痕跡”が残りやすかった。ところがAIは形式や体裁を整え、トレーサビリティ(誰がいつ作ったか)を隠しやすいのです。責任の所在を特定するハードルが上がります。

実務と制度でできる現実的な対策

まずは現場でできることから。こちらはすぐに取り組める案です。

  • 出典確認の義務化:書類作成時に一次資料の確認を義務付ける。チェックリスト化すると効果的です。
  • 編集履歴とログの保存:誰がいつ編集したかを残す。監査に耐える形にします。
  • 研修と倫理ガイドライン:弁護士・事務員向けにAI利用のルールを明確化します。
  • 懲戒と対応手順の整備:偽造が発覚した際の処分と対応フローを定めます。

技術面でも支援できます。生成物の出自を推定するツールや、メタデータによる追跡技術の導入が考えられます。ただし検出ツールは万能ではありません。人の目による確認と組み合わせることが重要です。

まとめ――法曹界は“適応”を迫られている

AIは文書作成を大幅に効率化します。利便性は魅力です。ですが、誤用や悪用は司法の信頼を揺るがします。今回の“言い訳”は一見ユーモラスでも、背後には制度の隙間と実務の脆弱性があります。裁判所や法律事務所は、制度的措置と実務的なチェック体制を早急に整える必要があります。

最後に一言。個別の事案の真偽や結論は、必ず公的記録で確認してください。報道は注意喚起にはなりますが、裁判の結論までを代替するものではありません。