書類の山に光は差すか

原子力現場では、設計図や安全評価、ライセンス更新といった膨大な書類が日々積み上がっています。ライセンス更新とは、原子炉を継続運転するために必要な審査書類を整え、規制当局の許可を得る手続きです。書類の量は増え続け、現場の負担は大きくなっています。

ここに登場するのがAI(人工知能)です。AIは大量の文書から必要な情報を抽出したり、要点を自動でまとめたり、書式をそろえたりすることができます。想像してみてください。膨れ上がった書類の山が、必要な箇所だけを指し示してくれるナビになるようなものです。

期待できる効果と具体例

AIの導入で期待される効果は分かりやすく、次のような作業が自動化できます。

  • 既存文書から該当条項を抽出する
  • 長い報告を短い要点に要約する
  • 書式や用語を統一して比較しやすくする
  • 設計変更の影響範囲をリストアップする

例えば、設計変更が出た際にAIが関連する審査項目を抜き出し、担当者に優先順位付きで提示する。これにより確認漏れが減り、作業は速く正確になります。

しかし、現場で使うには慎重さが必要

一方で原子力は安全性が最優先です。AIに任せきりにするのは危険です。AIの判断がどう導かれたか分かる説明可能性や、出力の監査記録(トレーサビリティ)が必須になります。データの質や偏りにも注意が必要ですし、規制要件を満たすための技術検証は欠かせません。

規制当局、電力事業者、ソリューション提供者の間で運用ルールを整備することが重要です。単にコスト削減だけで進めるのではなく、安全確保の手順を明確にした上で導入する必要があります。

現実的な道筋はハイブリッド運用

現時点で実用的なのは、人とAIによる協働です。具体的には、AIが下書きや要点抽出を行い、専門家がその結果を検証して最終判断を下すという流れです。実証実験やパイロット運用を重ね、監査可能なログを残す仕組みを整えれば、徐々に適用範囲を広げられます。

小さなステップで信頼を積み重ねることが、原子力分野でのAI活用の近道です。書類作成の手間が減れば、現場の負荷は下がり、本来注力すべき安全対策や運用改善にリソースを回せます。

まとめ:人とAIでつくる現場の未来

書類対応の自動化は、原子力産業にとって大きなチャンスです。とはいえ、安全性と信頼性を担保しながら段階的に導入することが肝心です。完全自動化を急ぐよりも、人の知見とAIの力を組み合わせるハイブリッド運用こそが、現実的で望ましい未来への道筋と言えるでしょう。