地球の“いま”をもっと近くで見る──そんな試みが進んでいます。衛星データと現地の観測をAIでつなぎ、1平方キロメートルの視点からさらに細かい30メートル級の解像度まで、生態系のリスクや生息地を描き出す取り組みです。地図を拡大すると、森の危険信号が手に取るように見えてくる。保全の現場がより具体的な行動をとりやすくなります。

高解像度で捉える森林リスクの新局面

最新研究は、森林喪失の原因を1平方キロメートル単位でモデル化します。対象期間は2000年から2024年です。ここで用いるモデルは衛星観測のみを入力とし、現地の道路データなどを必要としません。

コア技術にはVision Transformerを使います。Vision Transformerは画像を扱う深層学習モデルで、広い領域のパターンを効率よく学習します。これにより、広大な地域で30メートル級の高解像度予測が可能になります。言い換えれば、地図を顕微鏡で覗くように細部を判断できるようになるのです。

地理分布推定にGNNとデータ統合

種の地理分布を推定するにはGraph Neural Network(GNN)を活用します。GNNは地点や関係性をネットワークとして扱い、空間的なつながりを学習する手法です。これにOpen databases(公開されている野外観測データ)、AlphaEarth Foundations(衛星データの特徴を数値化した埋め込み)、種の特性情報を組み合わせます。

複数種を同時に扱う設計で、現地データや専門家の知見で推定を修正できます。オーストラリアのパイロットでは、23種の分布マップをUN Biodiversity LabやEarth Engineで公開しました。こうした統合はデータの穴を埋め、広い範囲で同時に知見を得る助けになります。

オーストラリアのGreater Gliderを地図化する実証

QCIFとEcoCommonsが実施したパイロットでは、Greater Glider(グレーター・グライダー)を含むオーストラリアの哺乳類を地図化しました。Greater Gliderは尾がふさふさした夜行性の有袋類で、老木のユーカリ林に暮らします。今回の地図は、同じ手法を他地域や他種へ広げるための実証例として期待されています。

Perch 2.0で鳥の鳴き声を現場活用

Perch 2.0は鳥の鳴き声識別に特化したモデルです。ここでの目的は、現場のエコロジストが新種や生息地の変化にすばやく対応できる基盤を提供することです。ハワイ大学との協力では、ハニークリーパー類の保全に役立てられています。

また、juvenile calls(幼鳥の鳴き声)の識別にも応用され、現場でのデータ解析コストが下がります。結果として、監視データがより短時間で保全判断に生かされるようになります。

政策と現場をつなぐ統合の道

重要なのは、複数のモデルとデータを統合して現場と政策決定をつなぐことです。データの網羅性と透明性が高まれば、意思決定はより良い結果につながります。逆にデータ品質が低ければ、せっかくのモデルも力を発揮できません。

そのため、公開データの整備と現地で使える解釈可能な出力が鍵になります。技術は道具です。最終的には、現地の人々と政策立案者が手を取り合って使うことで、はじめて価値を生みます。

未来の地図は、単に場所を示すだけではありません。リスクの兆候を教え、現場の判断を支え、保全のための次の一歩を示してくれます。衛星と音声、AIが組み合わさるその先に、より行動的で実効性のある生物多様性保全の世界が見えてきます。