なぜ注目するべきか

AIモデルを微調整する際、「重みの所有」は思った以上に重要です。ベンダーのAPIだけに頼ると、将来の移行や規制対応で手詰まりになることがあります。Basetenの新サービス「Baseten Training」は、訓練コードやデータだけでなく訓練済みの重みを企業がダウンロードして保有できる点を売りにしています。これは、ベンダーロックインの対抗策として魅力的です。

Baseten Trainingの中身(ざっくり解説)

Baseten Trainingは以下を主な特徴としています。

  • マルチノード訓練サポート:大きなモデルを複数GPUで安定して訓練できます。
  • 最新GPU対応:NVIDIA H100やB200など性能の高いGPUに対応。
  • 自動チェックポイント:途中経過を自動保存して復旧やデバッグを容易にします。
  • サブ分(sub-minute)レベルのジョブスケジューリング:細かなジョブ管理が可能です。
  • MCM(マルチクラウド管理)統合:複数クラウドやリージョンにまたがるGPUを動的に割り当てます。

加えて、Basetenはオープンな訓練レシピ集「ML Cookbook」を公開しました。最適化例ではEAGLE-3のスペキュレイティブデコーディングを使い、GPT OSS 120Bで処理速度を約60%改善しています(650+ tokens/s)。

Blueprintsの失敗から学んだこと

約2年半前、Basetenは高レベル抽象化の「Blueprints」を試しました。狙いは「必要な項目を選ぶだけで高品質モデルが得られる」体験でした。ですが、現場ではユーザー側に暗黙の判断や直感が求められ、製品がコンサル的に介入する必要が出てしまいました。

この経験を経て同社は方針転換。派手な“魔法”よりも、低レイヤーでの制御性と可観測性を重視する路線に移りました。言い換えれば、車を自動運転に任せるのではなく、エンジンや配線を見渡せる整備性を高めたのです。

差別化ポイント:MCMと可観測性

MCM(Multi-Cloud Management)は、クラウドをまたいでGPUリソースを動かす仕組みです。長期契約や単一クラウドへの依存を減らせます。

さらに、GPUごとのメトリクスや詳細なチェックポイント追跡など可観測性を高める機能が備わっています。マルチノード訓練でありがちな「どこでボトルネックが起きたのか分からない」という状況を減らせる点は実務的に大きな価値です。

ただし、こうした低レイヤーの自由度を活かすには、社内にしっかりしたML運用チームが必要になります。UX(ユーザー体験)と適切な抽象化のバランスが、採用の鍵を握ります。

早期導入企業の実例(数字が語る効果)

実際の導入効果も出ています。

  • AlliumAI:推論コストを約46,800ドルから7,530ドルへ削減。コストダウン約84%。
  • Parsed:音声文字起こしでエンドツーエンドのレイテンシを50%削減。EUでHIPAA準拠の展開を48時間で実現し、500以上の訓練ジョブを開始。
  • Oxen AI:Baseten上でインフラを構築し運用を開始。

これらは、カスタムモデルを大規模に運用する企業や、遅延・コストが重要なケースでの有効性を示します。

導入時に注意すべきポイント

魅力的な一方で留意点もあります。

  • 抽象化の失敗リスク:以前のBlueprintsのように、期待通りに使えないと再び人手が必要になる可能性。
  • 運用の複雑化:自由度が上がるほど、社内で扱う負担が増えます。
  • 社内準備の必要性:データ品質管理やハイパーパラメータ設計、ML運用力の整備が必須。

導入を検討する際は、重みの所有やマルチクラウドの利点と、自社の運用体制を冷静に照らし合わせてください。

資金・ロードマップと今後のフォーカス

BasetenはシリーズDで1億5,000万ドルを調達し、評価額は約21.5億ドルです。今後は画像・音声・動画での微調整対応や、強化学習(RL)・教師付き微調整(SFT)への対応、デコード効率化などに投資する計画です。

プロダクト面では、同時並走での最適化や運用リスクの管理が今後の焦点になります。企業にとっては、**「重みの所有」「マルチクラウド運用」**が実務的な価値を持つかを、自社リソースと照らして判断することが重要です。

まとめ:どんな企業に向くか

Baseten Trainingは、API依存から脱却したい企業や、訓練済み重みを自社で管理したい組織にとって有力な選択肢です。一方で、その効果を最大化するには初期投資と社内のML運用力が不可欠です。

最後に一言。便利な“魔法”を求めるか。あるいは多少手間をかけても細部までコントロールする道を選ぶか。Basetenは後者を選ぶ組織に、しっかりとした道具を渡そうとしています。興味があるなら、まずは小さなプロジェクトで試してみるのがおすすめです。