Blue J、ChatGPT転換で3,500社超へ
Blue JはChatGPTを核に事業を転換し、独自コンテンツと専門家チーム、利用データの学習循環で品質を高め、3,500社超へサービスを拡大した成長戦略を紹介します。
税務リサーチの風景が一変した
想像してみてください。これまで人手と経験に頼っていた税務リサーチが、対話型AIで瞬時に検討できる世界です。Blue Jはその現実化を目指し、ChatGPT(OpenAIが開発した対話型の大規模言語モデル)を核に事業を大胆に転換しました。結果、現在は3,500社を超える組織にサービスを提供しています。
転換を決めた瞬間
2022年冬、ChatGPTが世間の注目を集めました。創業者でCEOのベンジャミン・アラリ氏はここに成長の鍵を見出します。従来は予測モデルを中心に会計事務所を顧客にしていましたが、成長の天井に直面していました。大規模言語モデル(LLM)を未来の柱と判断し、2023年初頭には取締役会を説得して方向転換を決定します。
資金面でも追い風が吹きました。Oak HC/FTとSapphire Venturesが主導するシリーズDが成立し、報道では数百万ドル規模の資金調達と伝えられています。市場の期待感を背負って、Blue Jはスピードを上げました。
最初の苦戦と六カ月の勝負
初期ローンチは2023年8月。回答に90秒前後かかり、半数近くで品質課題が見られました。ここで放置していたら顧客は離れていきます。アラリ氏は「六カ月で実用レベルにする」とチームに指示し、徹底改善を命じました。
この短期集中の取り組みで、製品は劇的に変わります。遅さと誤答という二大問題に向き合い、実用性を確保しました。
技術改善の三本柱
改善は三つの柱で進められました。
大量の独自コンテンツライセンスの獲得
Tax NotesとIBFD(国際税務情報データベース)などの独自コンテンツを大規模に取り込みました。専門文献を学習データに入れることで、AIの回答の信頼性が高まりました。人間の専門家チームによる検証
IRS(米国歳入庁)出身のSusan Massey氏を中心に、現場経験豊富な専門家がAIの出力を検証・修正しました。AIは優れていますが、人のチェックが品質を担保します。フィードバック・フライウェールの活用
顧客の問い合わせと利用データを学習サイクルに組み込み、モデルを継続的に改善する仕組みを構築しました。フライウェールとは、製品の利用がさらに学習データを生む循環のことです。
これらにより、2025年には税務調査クエリが300万件を超えました。週次アクティブ率は75%から85%と高水準を維持し、従来型プラットフォームを大きく上回っています。
提携とエコシステム戦略
Blue JはOpenAIと緊密に連携しています。モデルの早期アクセスを得て、実務に即したテスト問題を提供し、モデル改善に貢献しています。ここでのテストは、ecologically valid(実務に適した妥当性の高い)問題を使うことで、現場で使える性能を測る工夫がされています。
またAnthropicやGoogleのGemini、オープンソースモデルも継続的に評価し、内部データで最適な組み合わせを追求しています。多様なモデルの評価は、コスト対性能のバランスを保つために重要です。
さらにTax NotesとIBFDとの独占ライセンスにより、米国・国際の税情報をプラットフォームに統合しました。技術力だけでは補いにくい網羅性と信頼性をデータ面で担保しています。
収益モデルと見えるリスク
収益は座席あたり年間約1,500ドルで、無制限の税務リサーチを提供するサブスクリプション型です。固定価格で顧客の利用を促し、計算コストは変動費として吸収する仕組みです。現状の粗利は高く、ネット売上維持率(ネトリテンション)は約130%に達しています。
とはいえ注意点もあります。API価格の下落圧力や計算コストの上昇は、収益性に影響を与えます。将来はコスト管理の強化や価格戦略の見直し、追加サービスの導入が必要になり得ます。
まとめ:新しい標準への一歩
Blue Jの取り組みは、AIを実務に落とし込む好例です。ChatGPTを起点に、独自コンテンツと人の専門性、利用データの循環を組み合わせることで、顧客満足と継続利用率を高めました。税務リサーチの現場は確実に変わりつつあります。今後も成長の歩みから目が離せません。ご興味があれば、実務での応用例や懸念点についても続けて解説します。