英国で広がる日英のAI安全協力

英国のAI安全網が新たな段階に入りました。DeepMindと英国AI Security Institute(AISI)は、基盤的な安全研究を拡大する協力体制をMoU(覚書)で正式に発表しました。DeepMindは2023年11月からAISIと協働しており、今回の拡張は検証にとどまらず研究領域の拡大を目指します。

読者の皆さんにわかりやすく言うと、AIに「安全の柵」を増やす取り組みです。柵は高く、強く、かつ中身が透明であることが重要です。

何を共同で進めるのか

拡張された協力では、主に次の三つが焦点になります。

  • CoTモニタリング(Chain-of-Thoughtの監視)
  • Socioaffective misalignment(社会・感情面の非整合性)の倫理検討
  • 経済システムへの影響評価とシミュレーション

それぞれ簡単に説明します。

CoTモニタリングとは何か

CoTはChain-of-Thoughtの略で、AIが問題を解くときの「思考の筋道」を指します。CoTモニタリングは、その過程を観測して異常や誤りを見つける技術です。たとえば、AIの回答を地図に例えると、CoTは進む道筋を記録するGPSのような役割を果たします。

この手法は解釈性研究を補完します。解釈性は「なぜその答えになったか」を説明する試みです。CoTモニタリングを組み合わせれば、回答生成の内部過程をより細かく検査できます。結果として、安全性評価の網羅性が高まります。

社会・感情面の非整合性(Socioaffective misalignment)とは

専門用語ですが、初出時に説明すると、Socioaffective misalignmentはAIの出力が人間の幸福や感情と合致しない状態を指します。たとえば、効率性だけを追求して人の心を傷つける提案を出すといったケースです。

この領域では倫理的影響を慎重に検討します。単に技術面を改善するだけでなく、人間の価値や幸福とどう調和させるかが課題です。

経済影響の評価に向けたシミュレーション

AIの導入が労働市場や産業構造に及ぼす影響を予測するために、現実に近いタスクを用いたシミュレーションを行います。専門家がタスクの複雑さや代表性を評価し、長期的な影響を推定する指標を作ります。

これは、将来の職業構造や技能需要を見通すための実践的なステップです。具体例としては、事務作業や設計業務などを模した環境でAIの振る舞いを評価することが挙げられます。

協働体制と外部評価の役割

今回の拡張はAISIとDeepMindだけの試みではありません。OpenAIやAnthropicなど外部の研究者・団体との協働が前提です。加えて、Apollo Research、Vaultis、Dreadnodeといった外部専門家とも連携を継続します。

DeepMindはFrontier Model ForumやPartnership on AIの創設メンバーでもあり、国際的な評価や透明性の確保に取り組んでいます。特に同社の大型モデルであるGemini 3は、最も知能的で安全性の高いモデルと位置づけられ、独立した評価と外部協働で検証が進行中です。

ガバナンスとリスク監視

拡張提携には内部ガバナンスの強化が含まれます。加えて、外部の専門家と協力することでリスク監視を継続的に行います。言い換えれば、社内のルール作りと外部の目の両方で安全性を守る仕組みです。

これは、透明性を高めつつ現実的な安全策を講じる「落としどころ型」のアプローチと言えます。

今後の展望と注意点

今回の動きは実践的な前進を示しますが、過度な楽観は禁物です。規制の動向や技術の進化速度によって、見通しは変わります。

期待できることは、外部協力の拡大と評価手法の強化により、政府や産業、社会全体に対する信頼性が高まりやすい点です。一方で、新たな倫理課題や未検討のリスクが出てくる可能性もあります。

結論として、今回の拡張はAI安全性を現実の政策や運用に結びつける重要な一歩です。今後の研究成果と外部評価に注目していきたいところです。

気になる方は、Gemini 3の独立評価や各種共同研究の公表をチェックしてみてください。最新の動きは、今後のAIのあり方に直接影響します。興味が湧いたら、また続報をまとめてお伝えしますね。