語りは企業の発明か、それとも古来の技か

データがあふれる今、私たちは意味のつながりをどう保つかを改めて問われています。英国紙The Guardianは、企業が「語り(storytelling)をオーナーシップ化しようとする動き」を取り上げました。ここでいうオーナーシップ(ownership)は、物や役割を独占的に所有するように扱うことを指します。

その記事に対してDanyah Millerらが示した反応はシンプルです。語りは企業が新しく作り出したものではなく、古代から人と人を結んできた技術だ、という指摘でした。言い換えれば、語りは職業や組織の枠を超えて存在する文化的資産なのです。

どこで育まれてきたのか

口承での語りは長い歴史があります。実際、過去30年以上にわたりSociety for Storytellingという団体が口述の語りを支援してきました。この団体のオンラインディレクトリでは語り手を探せますし、語り手は学校、劇場、職場、介護現場など多様な場で活動しています。

例えるなら、語りは「井戸の水」のようなものです。地域ごとに味わいがあり、誰かが管理はできますが、全てを一社が作り出したわけではありません。企業が語りを整理し活用することは可能です。しかしそれは古くからある技法の再編成に過ぎないことが多いのです。

なぜ今それが問題になるのか

情報が過剰な時代、語りは単なる情報伝達を超えます。語りは信頼や共感を築く橋渡しです。企業がストーリーを武器にすると、人々の感情や関係性に強い影響を与えます。ですから倫理と透明性が不可欠になります。

語りが企業戦略としてパッケージ化されるとき、注意したい点は次の通りです。

  • 語りを独占的な資産とみなさないこと
  • 聴き手の実体験を消費しないこと
  • 透明性を保ち、意図を明示すること

これらは単なる道徳論ではありません。信頼を長期的に築くための実務的な条件です。

実務での応用 — AI時代のヒント

AIの進化で物語の生成は容易になりました。だが、AIが作る語りと人が生きて紡ぐ語りは違います。実務で大切なのは人間らしさを軸に据えることです。

具体的には、次のような取り組みが有効です。

  • 現場の声を収集し、語りの素材にする
  • 物語の出所や編集方針を明示する
  • 語りを教育やケア、社内交流のツールとして使う

AIは補助道具に過ぎません。共感を生むのは最終的に人間の判断です。

結びにかえて

語りは企業の専売物ではなく、古来からの人間の技です。組織はこの技を奪うのではなく、歴史と現場の実践を尊重して扱うべきです。倫理と透明性を軸にすれば、語りは公共的な価値を生み出す資産になります。

最後に一つ問いかけます。あなたの組織では、語りを誰のために、どのように使っていますか。少し立ち止まって考えてみる価値はあるはずです。