MIT と Microsoft の Murakkab――AI ワークフロー自動最適化で計算量 35% 削減
MIT と Microsoft Azure が共同開発した Murakkab は、自然言語でタスクを指定すると AI モデル・ツール選択とリソース配分を自動最適化。計算量 35%、エネルギー 27% 削減を実現。USENIX OSDI で 7 月発表予定
MIT と Microsoft の Murakkab――AI ワークフロー自動最適化で計算量 35% 削減
MIT 電気工学・コンピュータ科学部門と Microsoft Azure が共同開発した Murakkab(ウルドゥー語で「複合体」の意)は、自然言語で指定された AI ワークフローを自動最適化するシステムです。7 月 13~15 日にシアトルで開催される USENIX OSDI 2026 で正式発表予定。
この研究は、急速に複雑化する「AI エージェント連携」のコスト・エネルギー問題に光を当てています。
課題:Agentic Workflows の非効率性
近年、複数の AI モデル・ツールを連携させた「Agentic Workflows」が主流になりました。例えば:
- ビデオ分析タスク:ビデオ理解モデル → テキスト抽出 → 質問回答 AI → レポート生成
- コード生成タスク:自然言語理解 → コード生成モデル → 品質チェック → テスト実行
これらのワークフローは強力ですが、深刻な問題があります:
問題1:開発者の手動設定
従来は、開発者が以下をすべて事前に指定する必要がありました:
- どの AI モデルを使うか(GPT-4・Claude・Llama など)
- 各ステップでどのくらいのリソース(GPU・メモリ)を割り当てるか
- 新しいモデルが登場したときに全ワークフローを再設定
問題2:クラウドプロバイダーの最適化不足
Amazon SageMaker・Google Vertex AI・Azure Machine Learning などのクラウドサービスでも、ワークフロー全体のリソース配分を自動最適化できませんでした。その結果:
- 過剰なリソース割当:全タスクが「最悪ケース」を想定して実行される
- エネルギー浪費:不要な計算が大量に行われている
- コスト増大:クラウド料金が必要以上に高くなる
問題3:モデルの急速な進化に非対応
新しく高精度・低コストなモデルが登場しても、既存ワークフローに組み込むには手動の再設計が必要。企業は常に「最新モデルの恩恵」を見落としていました。
Murakkab の仕組み
ステップ1:自然言語でタスク指定
開発者は単に「このビデオから物体を検出して、見つかった物体について質問に回答する」と指定するだけ。技術的詳細は Murakkab が自動処理します。
ステップ2:モデル・ツール選択の自動化
Murakkab は以下を自動判断します:
- 最適なモデル選択:タスクの要件に合わせて、利用可能なモデルの中から最適なものを自動選択
- 精度・コストのバランス:高精度が必要か、それとも高速処理が優先か。トレードオフを自動最適化
- リソース配分:各ステップに必要な計算リソースを動的に割り当て
ステップ3:実行時リソース最適化
クラウドプロバイダーと連携して、実行時に:
- GPU・CPU・メモリ割当を動的に調整
- 不要な冗長計算を排除
- 並列実行可能な処理を検出して同時実行
パフォーマンス:数字で示す効果
テスト結果(平均)
| メトリクス | 削減率 | 注記 |
|---|---|---|
| 計算量 | 35% 削減 | 同じ精度を保持 |
| エネルギー消費 | 27% 削減 | 実環境での電力使用量 |
| クラウドコスト | 25% 未満削減 | 計算リソース課金ベース |
極端なケース(精度わずか 2% 低下)
一部のタスクでは、精度を 2% 低下させることで、エネルギー消費を 10 倍以上削減できることが判明。
例:ビデオフレーム分類で、99% 精度から 97% 精度に下げることで、計算量を 1/10 に削減可能。ユースケース(例:推薦システムの初期フィルタリング)によっては、この 97% で十分です。
開発元・発表予定
共同開発:
- MIT 電気工学・コンピュータ科学部門
- Microsoft Azure Research
発表イベント:
- USENIX OSDI 2026(シアトル)
- 日程:2026 年 7 月 13~15 日
商用化時期: 記事では明記されていませんが、Microsoft Azure への統合が有力な候補。Azure Machine Learning や Azure AI Service 内での機能化が期待されます。
産業への影響
企業・開発者向け
- AI パイプライン構築の簡素化:複雑な Agentic Workflow も、自然言語で指定すれば最適化してくれる
- 運用コスト削減:エネルギー・クラウド課金を 25~35% 削減できるため、大規模 AI 運用で大きなメリット
- モデル最新化の自動化:新しいモデルが登場すると、Murakkab が自動的に比較・統合検討
クラウドプロバイダー
- Microsoft Azure:Murakkab を組み込むことで、競合(AWS・Google Cloud)との差別化ポイント
- 顧客のエネルギー削減:グローンバル志向の企業から「低炭素 AI 実行」のニーズが高まるなか、Murakkab は大きな武器
環境・社会への影響
AI モデルの学習・推論に使われるエネルギーは世界的に問題化しています。計算量・エネルギー消費の 35% 削減は、大規模 AI インフラの炭素排出削減に寄与します。
特に、Google・Meta・Microsoft・Amazon などが数百万 GPU を稼働させている時代、このような最適化技術の積み重ねが環境影響を左右します。
まとめ
Murakkab は、「AI ワークフロー管理」という地味だが重要な領域での技術革新です。複雑な Agentic Workflow をシンプルに記述でき、かつコスト・エネルギー効率を大幅に向上させる仕組み。
企業 AI 運用の未来は、「AI モデルの精度競争」から「AI ワークフローの効率競争」へシフトしています。Murakkab はその転換点を象徴する研究と言えるでしょう。