AIエージェントの“思考”が見える時代が来ました。Salesforceが発表したAgentforce Observabilityは、エージェントの判断過程をほぼリアルタイムで追跡し、現場での透明性と信頼性を高めます。AIの“なぜそうしたか”が分かれば、導入の不安はぐっと減ります。読んでいただければ、導入現場で何が変わるのかがつかめます。

Observabilityとは何か

Observability(オブザーバビリティ)は、システム内部の状態を外から観測して理解する仕組みです。ここでの目的は、AIエージェントの出力だけでなく、そこに至る推論の過程やチェックの履歴まで可視化することです。

Agentforce ObservabilityはAgentforce 360 Platformの一部として提供されます。エージェントのすべてのアクション、推論ステップ、ガードレールの検査結果を記録し、現場の運用担当が“なぜ”を追えるようにします。

どうやって“見える化”するのか

主な仕組みは次のとおりです。

  • Session Tracing Data Model:
    ユーザー入力、エージェント応答、推論ステップ、言語モデルの呼び出し、ガードレールチェックなどをセッション単位で記録するデータモデルです。これにより一連のやり取りを時系列でたどれます。

  • MuleSoft Agent Fabric:
    エージェントの“スプロール(散在)”を抑え、複数エージェントの振る舞いを一元管理します。まるで複数の探偵を一枚の地図で追うようなイメージです。

  • Agent Visualizer:
    全エージェントネットワークの視覚マップを提供します。問題の発生箇所を直感的に見つけられます。

これらをData 360に統合することで、セッション単位の視界が得られます。Health Monitoringはほぼリアルタイムでエージェントの健康指標を追跡し、重大なエラーや遅延を検知してアラートを出します。なお、Health Monitoringは2026年春に一般提供が予定されています。

実務での効果――導入企業の声

導入事例を見ると、観測の効果が分かります。

  • 1-800Accountantは導入後24時間で1000件以上の対応を解決しました。税務相談の複雑さを踏まえ、推論の透明性が品質向上につながったと評価しています。

  • Redditは広告主向けサポートでAgentforce導入後、サポートケースの46%を自動で扱えるようにしました。意思決定経路の可視化が広告主への説明責任を果たす助けになっています。

  • AdeccoのIT担当SVPは、試験段階での可視化によりエージェントの挙動に信頼が持てると語っています。事前に挙動を観測できることで全面展開への不安が減り、社内連携拡張も検討中です。

これらの事例は、観測によって運用コストが下がり、導入リスクが軽減される実感を示しています。

競合と導入判断のポイント

Salesforceはこの機能をMicrosoft、Google、AWSといったクラウド監視ツールと比較しています。特徴は追加費用なしで標準搭載される点と、セッション単位で深掘りできる可視性です。

選択の軸は「深さ」と「広さ」です。クラウド基盤の汎用的な監視で十分か、あるいはSalesforceのようなエージェント層で詳細を追うか。企業のリスク許容度や運用体制により判断が分かれます。

結論:信頼と実務を両立するために

公式発表はAI開発ライフサイクルをbuild、test、deployの3段階と位置づけています。Observabilityはdeploy後の運用で特に力を発揮しますが、大切なのは観測結果を組織の改善に結びつけることです。

具体的には、観測データを使った定期的なレビュー、ガバナンスの整備、そして改善サイクルの運用化が必要です。観測は単に「見える化」するだけでなく、現場の判断力を高め、AIを安全にスケールさせるための道具になります。

SalesforceのAgentforce Observabilityは、そのための基盤を提供します。実務現場にとって、AIの判断を“見て学べる”環境は心強い味方になるでしょう。読み終えたら、まず自社の監視設計を見直してみてください。観測から改善が始まります。