AIによるコーディング支援は現場を変えつつあります。とはいえ、実務の世界では綺麗なデモ通りには進みません。特に「2,500ファイルを超える巨大リポジトリ」が、思わぬ足かせになる場面が増えています。ここでは現場で起きている課題を具体例や比喩を交えて分かりやすく解説します。

そもそも「エージェント」と「モノレポ」って何ですか

エージェントは自動でタスクを実行するAIのことです。モノレポ(monorepo)は複数プロジェクトを一つのリポジトリで管理する方式を指します。どちらも便利ですが、規模が大きくなると運用が難しくなります。

2,500ファイルの壁とは

大きなリポジトリでは、AIが利用できる情報量に制約が出ます。索引づくりや学習に時間がかかり、結果としてエージェントが参照できる範囲が限られてしまうのです。イメージとしては、図書館の本が膨大すぎて、目録が間に合わない状態に似ています。

現場のコードは社内ドキュメントやエンジニアの経験に知識が分散しています。AIに一任してしまうと、重要な文脈を見落とす危険があります。ですから単にツールを入れれば解決する、という単純な話ではありません。

500KB超ファイルが索引から外れる現実

企業では、500KBを超えるファイルを索引対象から外す運用がよく見られます。これは長いログファイルや巨大な定義ファイルが原因です。索引に入らないと、AIはその部分を参照できません。結果として作業効率が落ち、誤解や手戻りが増えます。

実務的な対処法は、ファイルを分割したり要約を用意したり、関連文書を外部参照としてリンクすることです。ちょっとした整理で、大きな改善につながります。

OSや実行環境の認識不足が招く小さな地雷

エージェントは実行環境を誤認することがあります。例えばPowerShell上でLinuxコマンドを実行しようとして「コマンドが見つからない」といったエラーが出ることがあります。また、コマンドの出力を最後まで読み切らずに次に進んでしまう不安定な挙動も報告されています。

これらは「環境に合わせた設計」と「人によるチェック」を組み合わせることで軽減できます。完全自動化は理想ですが、現実にはまだ人の目が必要です。

セキュリティと古いSDKのリスク

実務では古いSDKやキー認証だけに頼る運用も散見されます。ここで問題になるのは保守性と安全性です。最新のIDベースの認証やアップデートされたSDKを取り入れないままでは、長期運用で負担が膨らみます。

短期的には既存コードを流用するのが楽です。しかし中長期を見据えるなら、セキュリティとメンテナンス性を優先した移行計画が欠かせません。

導入時に優先すべき視点

企業導入では、次の四点を優先してください。セキュリティ、スケーラビリティ、保守性、長期運用の安定性です。要するに「何を出荷するか」「どう安全を確保するか」「どこまで拡張するか」を最初に明確にすることが重要です。

GitHubのCEO、トーマス・ドームケ氏も指摘するように、開発者の役割は「コードを書く人」から「AIエージェントが作業するための設計と検証を行う人」へと変わりつつあります。つまり道具が変わっても、設計と検証の責任は人間に残ります。

最後に:現場で使える実践的な一歩

巨大リポジトリに直面したら、まずは適切なスコープ分割を試してください。小さく区切って学習させると、AIの成果が見えやすくなります。次に環境の正確なドキュメント化と、人による監視ルールを整えてください。これだけで実運用の信頼度は大きく上がります。

結論として、AIコーディングは大きな可能性を持っています。ですが現場で成果を出すためには、設計・運用・ガバナンスの三本柱を揃えることが近道です。少し手間をかける価値は、確実にありますよ。