現実世界で“考える”ロボットが近づいてきた

現場で動く“エージェント”の実現が現実味を帯びてきました。Gemini Robotics ER 1.5は、Google AI StudioのGemini APIを通じて選定パートナーに提供されている最新世代です。単なる命令遂行を超え、推論・計画・対話・ツール呼び出しを組み合わせた振る舞いを目指しています。

中心にある設計――二つのモデルの協調

ER 1.5は、二つの協調するモデルで動作します。中核となるembodied reasoning modelは、環境理解や計画、判断、ツール呼び出し、そして自然言語での説明まで統括する役割を持ちます。embodied reasoning modelとは、身体(ロボット)を踏まえた推論を行うモデルです。もう一方のモデルは、その推論を実際の動作や制御に橋渡しします。例えるなら、指揮者とオーケストラの関係です。指揮者(推論モデル)が全体を見て指示を出し、奏者(制御系)が細かい演奏を行います。

この設計により、多段階で複雑なタスクを段階的に分解して安定して解く能力が向上しました。思考過程を自然言語で説明できるため、何をどう考えたかを外部から検証しやすく、信頼性の向上にもつながります。

エージェント思考を組み込む意義

エージェント型設計は、内部に思考を持たせることと自然言語で連携することの二軸で成立します。内部思考の導入で、複数ステップのタスクを効率よく処理できます。加えて、説明可能性が高まることで現場での検証が容易になります。要するに、なぜその行動を取ったかが追えるようになるのです。

学習転移の実用性――違うロボットへ動作を移す

現場では、学習した動作を別のロボットに移す試みが進んでいます。embodimentとはロボットの物理的な形や関節構成のことです。特定のハードに特化させず、同じモデルを別機体へ転移することで、訓練コストを下げられます。実例として、ALOHA 2で学んだタスクがApptronikのヒューマノイドやFrankaの双腕アームへ移された報告があります。これは、新しいロボット導入時の“学習し直し”を減らす可能性を示しています。

安全性と倫理――ASIMOVベンチの更新

安全面ではASIMOVベンチがアップデートされました。尾部カバレッジ(まれな事例への対応範囲)の改善、注釈の充実、新しい安全質問タイプの追加、そしてビデオモダリティの導入などが含まれます。ER 1.5はこのベンチで高評価を得ています。

技術的には、高レベルの意味推論でセマンティックな安全性を担保しつつ、衝突回避などの低レベルサブシステムをオンボードで即時トリガーする二層構造を採用しています。要するに、賢く判断しつつも、物理的には速やかに安全装置が働く設計です。これは責任ある運用や人間中心の環境で重要な要素です。

研究と現場をつなぐ道筋

Gemini Robotics 1.5は、物理世界での高度なエージェント実現に向けた重要な一歩です。単なる命令の遂行から、計画・推論・ツール活用・一般化を伴う応答へと進化しています。今後は研究コミュニティと連携し、透明性や倫理、ベストプラクティスの普及を進めながら、実装と現場展開を並行して進めることになるでしょう。

現場と研究の間にある溝を埋める作業は、ロボティクスとAIが共に新しい働き方を作る過程でもあります。期待と慎重さを持ちながら、次の波を見守りたいところです。