驚きの一手――訴訟相手と手を組む理由

UMGがかつて訴えた相手と共同でAIプラットフォームを作る――このニュースは衝撃でした。表向きは「アーティストの利益を守る」と言いますが、誰が主導権を握るのか。読者の皆さんも「本当に大丈夫?」と感じるでしょう。

経緯:訴訟から協業へ、何が起きたのか

昨年、Universal Music Group(UMG)は、一部のAI音楽スタートアップが自社の録音を無断で学習データに使ったとして訴訟を起こしました。ここでいう「学習」とは、モデルに曲を大量に与えて特徴を学ばせることです。これにより、AIは既存楽曲のスタイルを模倣する音を生み出せるようになります。

ところが約半年後、UMGは被告の一社と共同でAI音楽プラットフォームを立ち上げる契約を発表しました。法廷闘争が続く中での協業発表は、業界の常識を覆す出来事です。

なぜ大手レーベルは“敵”と組むのか

端的に言えば、リスク管理収益確保です。レーベルは、AIによる法的・倫理的リスクを制御しながら、新たな収入源を得たい。テック企業は、著作権で保護された音源や業界の後ろ盾を得て市場拡大を目指します。

企業間の取引は、時に法廷での「勝ち負け」よりもビジネスの効率を優先します。言い換えれば、訴訟と提携は相反せず、並行して進むこともあるのです。

アーティストの反応:脇役にされる恐れ

アーティスト団体は強く反発しています。Music Artists Coalitionは、今回の合意について「アーティストが脇役に回され、残り物に甘んじる」と懸念を示しました。

背景には、企業間の交渉で個々のアーティストの声や報酬が反映されにくいという歴史があります。今回も、条件設定や利益配分でアーティスト本人の同意がどれだけ反映されるかが疑問です。

注目すべき3つのポイント

ここからはチェックリストです。今後注視すべき点は次の3つです。

  • 契約の透明性:合意内容はどこまで公開されるのか。アーティストが理解できる形で開示されるか。
  • 直接同意と報酬:レーベル経由だけでなく、個別のアーティストへの同意と補償が明確化されているか。
  • 実務運用の公正性:プラットフォーム稼働後に権利処理や収益分配が公平に行われるか。

これらが満たされない限り、合意があってもアーティスト保護は不十分です。

アーティストが取れる現実的な対応策

アーティスト側の選択肢もあります。以下は実務的な手段です。

  • 交渉の場に積極参加する。自分の声を届ける。
  • 独立した代表組織に条件設定を委ねる。利害の対立を緩和するためです。
  • 第三者監査や業界基準の導入を要求する。運用の信頼性を高めます。

これらは劇的な解決策ではありませんが、権利保護を強める現実策です。

最後に:合意は設計図、施工が勝負

今回のUMGとUdioの合意は、AIと音楽の関係がまだ整備途中であることを示しました。重要なのは合意の有無ではなく、その実行です。合意はあくまで設計図。実際の施工である運用と透明性が、アーティストの利益を守るカギになります。

これから契約文の公開や運用の動きを追っていけば、業界の“本気度”が見えてくるはずです。読者の皆さんも注目してみてください。