ERNIE 5.0がGPT‑5に迫る理由
BaiduのERNIE 5.0はネイティブなマルチモーダル設計と商用+オープンの二刀流戦略でGPT系に挑みますが、企業は性能・価格・ライセンスを自社データで検証し、用途に応じたハイブリッド運用を検討する必要があります。
ERNIE 5.0がGPT‑5に迫る理由
AI選びの地図がまた塗り替えられそうです。Baiduの新旗艦モデル「ERNIE 5.0」と、OpenAIの最新アップデート「GPT‑5.1」が並び立ち、企業の導入判断に新たな選択肢を突きつけています。どちらが「勝ち」ではなく、目的に応じた賢い使い分けが重要です。
提供形態が示す違い — 組み込みやすさか、最適化か
OpenAIはGPT‑5をAPIで提供しています。APIとは、開発中のアプリやシステムからモデルを呼び出す仕組みです。既存の開発フローへ組み込みやすいのが利点です。
一方、BaiduはERNIE 5.0を専有ホスティングで提供します。自社サーバーでの最適化や付加サービスを前提にしやすく、運用の手間が少ない反面、カスタマイズやオンプレ運用には制約が出る可能性があります。
選ぶ基準は簡単です。コスト構造、運用の自由度、マルチモーダル対応の優先度を照らし合わせてください。
技術の核:ネイティブなマルチモーダル設計とドキュメント理解
ここで「マルチモーダル」を説明します。マルチモーダルとは、テキスト、画像、音声、動画など複数のデータ形式を同時に扱う能力です。ERNIE 5.0はこれを「ネイティブ」に統合する設計をうたっています。
Baiduの社内スライドでは、OCRBench、DocVQA、ChartQAといったドキュメント系ベンチマークでGPT‑5‑HighやGoogleのGemini 2.5 Proを上回ったと報告しました。音声理解や画像生成でも競争力があるとされています。
イメージとしては、紙の契約書や表・図が混在する作業を、一度に読み解いて整理してくれる秘書のようなものです。会計や契約審査、研究資料整理などで威力を発揮する可能性があります。
ただし、ここは要注意です。Baiduの優位性は主に社内評価に基づきます。第三者による再現性のある検証や、自社データでの精度チェックが不可欠です。
価格戦略:高性能はプレミアム帯に位置付け
Qianfanで示された料金は次の通りです(1Kトークン当たり、Baidu発表):
- ERNIE 5.0:入力 0.00085ドル(約0.12円)、出力 0.0034ドル(約0.48円)
- ERNIE 4.5 Turbo(参照モデル):入力 0.00011ドル、出力 0.00045ドル
注:為替・表記差で若干変動します。
この差は、ERNIE 5.0が「高付加価値の処理」を担う想定であることを示しています。大量トークンを消費する処理はコストが膨らみます。実務ではハイブリッド運用が現実解です。高精度が必要な箇所だけERNIE 5.0を使い、それ以外は軽量モデルでまかなう設計が効果的です。
オープンソース戦略:ERNIE‑4.5の公開が意味すること
BaiduはERNIE‑4.5‑VL‑28B‑A3B‑ThinkingをApache 2.0で公開しました。ここでのポイントを整理します。
- 28Bパラメータ中3Bを活性化するMixture‑of‑Experts(MoE)を採用
- 画像とテキストの同時処理やチャート解釈、動画の時間的認識に対応
- 単一の80GB GPUで実行可能をうたう
- TransformersやvLLM、FastDeployとの互換性あり
この公開は、中堅企業や研究者にとって商用利用のハードルを下げる強力な一手です。Baiduはフラッグシップをクローズドで提供しつつ、実務向けのオープン版を配る「二刀流」で幅広いユーザーを取り込もうとしています。
国際展開とプロダクト群が示す戦略
Baiduは単体モデルだけでなく、GenFlow 3.0や商用エージェント、No‑codeツールなどのエコシステムを国際展開しています。デジタルヒューマンや自動運転など多様なプロダクトでの採用実績を示し、市場への総合的な訴求を意図しています。
ただし、国ごとの規制やデータ保護要件への対応は地域差があります。採用前に法規制面の検証も忘れないでください。
実務での選び方:検証とトレードオフの取り方
結論はシンプルです。まず自社の要件を明確にしてください。特に以下を検討します。
- マルチモーダルの重要度
- ドキュメント処理の比重
- トークン消費量とコスト制約
- ライセンス・運用の自由度
マルチモーダル精度が差別化要因ならERNIE 5.0の評価が合理的です。試作や独自運用、ライセンスの自由度を重視するなら、ERNIE‑4.5のApache 2.0版で検証を進めるのが現実的です。
いずれにせよ、Baiduのベンチマークは社内評価に基づいている点を踏まえ、第三者ベンチマークや自社データでの再検証を必ず行ってください。コスト面では、用途に応じたモデル使い分けで総所有コストを抑えられます。
最後に — まずは小さな実験を
ERNIE 5.0は確かに注目に値します。しかし「導入=即成功」ではありません。まずは小さなPoC(概念実証)で自社データを走らせてください。そこで得た実測値をもとに、ハイブリッド運用の設計とコスト評価を行うことが、賢い導入への近道です。
質問や、具体的な検証プラン作成の相談があれば気軽にどうぞ。技術は進化しますが、最良の選択は常に現場の検証が教えてくれます。