国土交通省、行政データをAIで対話検索できる「MCPサーバー」公開

国土交通省は2025年11月中旬、国土交通データプラットフォームにおいて、AIを活用した対話形式でのデータ検索を可能にする新機能「MCPサーバー」の提供を開始しました。
これにより、専門的なAPIの知識がなくても、自然な日本語で質問するだけで行政データを取得・分析できる環境が整いつつあります。

本記事では、MCPサーバーの概要や機能、想定される活用シーン、そして生活者や自治体にどのような利便性をもたらすのかを、順を追って解説します。

MCPサーバーとは何か

国土交通省の「MCPサーバー」は正式名称を「MLIT DATA PLATFORM MCP Server」といい、MCPは Model Context Protocol(モデル・コンテキスト・プロトコル)の略称です。
もともとは、大規模言語モデル(LLM)などのAIアシスタントが、外部のデータやツールにアクセスするための共通プロトコルとして設計された仕組みで、AIがさまざまなサービスに「標準的なやり方」で接続できるようにすることを目的としています。

国土交通データプラットフォームは、2020年4月の公開以来、主に次のような手段でデータを提供してきました。

  • ブラウザから操作できる GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)
  • システム連携のための API(アプリケーションプログラミングインターフェイス)

今回公開されたMCPサーバーは、これらに続く**「第3の入口」**として位置付けられています。
従来のGUIやAPIでは扱いづらかった、あいまいな指示や複雑な条件検索にも対応しやすくなり、「AIと会話する感覚」で行政データにアクセスできる点が大きな特徴です。

背景には、行政データをより多くの人・多様な分野で活用してもらうためのデジタル施策があります。
国土交通省は「AI・データ駆動型エコシステム」の実現を掲げ、国土交通データプラットフォームの利活用促進に向けた実証調査を進めており、MCPサーバーはその取り組みを支える重要なピースとなっています。

どんなことができるのか(機能と扱えるデータ)

MCPサーバーを介すると、国土交通データプラットフォームに登録された各種データを、対話形式で柔軟に検索・取得できます。主な機能は次のとおりです。

自然言語での柔軟な検索

  • キーワード検索
    例:「渋滞状況のデータを教えて」「橋梁の点検結果を見たい」
    といった指示から、関連するデータセットを探し出せます。

  • 位置・範囲の指定
    地名や緯度経度、行政区域を指定して、その範囲に絞ったデータを検索できます。
    例:「大阪府内の道路老朽化に関する情報を教えて」など。

  • 属性条件でのフィルタリング
    データの項目に基づいて条件を指定し、該当する情報だけを抽出できます。
    例:「2015年以降に点検された橋梁だけ」「特定路線の交通量データだけ」など。

データカタログ・メタデータの取得

国土交通データプラットフォーム上のデータカタログから、データセットの概要や説明をAI経由で確認できます。

  • 「○○調査の概要を教えて」
  • 「この統計は何年分のデータがありますか?」

といった質問に対し、データの目的や収集項目、期間などを分かりやすく返してくれます。

地域コードによる精度の高い指定

都道府県コードや市区町村コードを使って、地域を正確に指定することもできます。
地名の表記ゆれを気にすることなく、コードベースで地域データを参照できるため、システム連携との相性も良い仕組みです。

どのようなデータが扱えるか

MCPサーバーから参照できるのは、国土交通データプラットフォームに蓄積された、幅広い分野のオープンデータです。代表的なものとして、次のようなデータが挙げられます。

  • 道路・橋梁の点検情報などの インフラデータ
  • 鉄道・空港などの旅客流動に関する 交通データ
  • 人口動態や観光統計などの 社会経済データ

たとえば、道路インフラの老朽化状況、地域ごとの交通量、観光客の移動傾向、人口の推移といったデータを、横断的に検索・分析することが可能です。
これまで複数の統計表や資料を行き来しながら確認していた情報を、対話を通じてまとめて引き出せる点が大きな利点です。

技術的な位置づけ:APIとAIの「橋渡し役」

技術的に見ると、MCPサーバーは国土交通データプラットフォームのAPIとAIアシスタントとの橋渡し役となるゲートウェイです。

ユーザーからの自然言語による問いかけは、裏側でMCPプロトコルに沿ったJSON形式のコマンドに変換され、サーバーとやりとりされます。サーバー側は、その内容に応じて内部のキャッシュやプラットフォームのAPIから必要な情報を取得し、結果をAIに返します。

ポイントは、

  • 既存のAPIを置き換えるのではなく「上にかぶせる」形で標準化されたアクセス手段を提供していること
  • 複数のデータソースに対して、統一的かつ安全にアクセスできること

です。ユーザーは複雑なAPI仕様や認証の細部を意識する必要がなく、**「AIと会話するだけで欲しいデータが手に入る」**体験を得られるようになります。

開発者・AI研究者による活用シナリオ

MCPサーバーの公開により、開発者やAI研究者が国土交通省の公式データを活用したアプリケーションを構築しやすくなりました。

新しいアプリやサービスの構築

  • チャットボットやスマホアプリにMCPサーバーを組み込むことで、
    ユーザーが「○○の統計を教えて」と聞くだけで、国のデータに基づいた回答を返すサービスを実現できます。
  • 都市計画やモビリティ分野のシミュレーションツールに組み合わせれば、
    過去の交通量や人口動態データをAIが自動で取得・分析し、施策の検討を支援することも可能です。
  • 防災・減災分野では、被害想定や避難情報など、複数のデータを横断してAIが集約し、状況把握を助けるツールへの応用も考えられます。

データ分析の自動化・高度化

すでに一部の技術者は、国土交通データプラットフォームに含まれる「全国幹線旅客流動調査」や訪日外国人の移動データなどを、MCPサーバー経由でAIに分析させる実験を行っています。

  • 都道府県間の人の流れをAIに要約させ、簡易なOD(起点・目的地)分析のレポートを生成する
  • 特定地域の訪日客の移動傾向を尋ね、AIが公式統計に基づいた傾向を示す

といった使い方が報告されています。

こうした仕組みによって、開発者はデータの取得や前処理に多くの時間をかけずに済み、
アプリケーション設計やユーザー体験の改善といった「上流の価値づくり」に集中できるようになります。

技術者コミュニティからも、

「オープンデータの新しい触り方になっていきそう」

といった期待の声が上がっており、初めてMCPに触れる開発者にとっても、国土交通省が用意した手順書やサンプルが分かりやすいと評価されています。

生活者・自治体にもたらす利便性

MCPサーバーは、開発者だけでなく、一般の生活者や自治体職員にとっても利便性向上につながる可能性があります。

市民にとってのメリット

これまで政府の公開データを使いこなすには、統計やITに関する一定の知識が必要でした。
しかし、行政の相談窓口やウェブサイトにMCPサーバーを活用した対話型の仕組みが導入されれば、

  • 「この地域の人口は過去10年でどう変わりましたか?」
  • 「近くの道路整備の計画はありますか?」

といった疑問を、日常の言葉で投げかけるだけで、AIが関連するデータを探し出し、わかりやすく説明してくれる世界が見えてきます。
数字の羅列ではなく、文章や会話として情報が返ってくることで、専門知識の有無にかかわらず内容を理解しやすくなります。

自治体にとってのメリット

地方自治体にとっては、業務の効率化やエビデンスに基づく政策立案(EBPM)を支えるツールになり得ます。

  • 自治体職員がAIに「自分の市の道路老朽化率は全国平均と比べてどうか」などと尋ね、
    必要な統計や比較結果をその場で確認する
  • 観光施策の検討時に、観光客数や来訪者の動きのデータをAI経由で素早く取り寄せる
  • 他地域との比較や、時間の経過による推移を、グラフや要約とともに得る

といったことが可能になれば、調査業務の負担軽減につながります。
災害対応の場面でも、過去の被害データやハザードマップ、人口分布、避難所情報などを横断的に参照できるようになれば、初動対応の迅速化に貢献すると期待されます。

国土交通省は、専門的な知識や技術がなくても、AIを通じて自然言語で検索・分析ができる環境づくりを目指しており、
MCPサーバーは「誰もがデータにアクセスできる社会」への一歩として位置づけられています。

今後の展望

MCPサーバーの登場により、国のオープンデータ活用は新たな段階に入りつつあります。

  • 国土交通省以外の省庁や自治体でも、同様にAIチャットを入り口としたデータ提供が広がる可能性
  • 国土交通データプラットフォーム自体のデータ拡充と、それに伴う新たな活用シナリオの登場
  • 民間サービスや他のMCPサーバー、さまざまなLLMとの連携による「データとAIのエコシステム」の形成

などが期待されています。

現在進められている実証調査を通じて、MCPサーバーの有効性や課題が検証され、利用者の声を反映した改良が行われていく見込みです。
GUI、APIに続く**「第三のデータアクセス手段」としての対話型インターフェイス**が、行政のデジタル基盤に定着するかどうか、その動向が注目されます。

行政データとAI技術の融合に挑むこの取り組みは、非エンジニアにも開かれたデータ基盤を実現し、
データに基づく意思決定やサービス創出のすそ野を広げるものとして、大きな意味を持つと言えるでしょう。

参考リンク