Google が発表した「Antigravity」は、単なる“AI付きエディタ”ではありません。
Gemini 3 Pro を中心に据えた“エージェントファーストな開発環境”として設計された、新世代の IDE です。

コードを書くだけでなく、エージェントがエディタ・ターミナル・ブラウザを行き来しながら、調査・設計・実装・テストまでを一気通貫で進める。
Antigravity は、そんな「AI が本気で手を動かす開発スタイル」を前提にしたツールと言えます。


Antigravity とは何か

Antigravity は、Windows/macOS/Linux 向けに提供されている無償のパブリックプレビュー版の AI IDE です。

  • 中核モデルは Gemini 3 Pro
  • Claude や OpenAI 系モデルなど、複数プロバイダも選択可能
  • エージェントがエディタ・ターミナル・ブラウザを直接操作
  • 作業の過程は「アーティファクト」として履歴化・可視化

いちばんのポイントは、**“途中経過が見える”“エージェントが自律的に動く”**こと。
「よく分からないけど最終的にコードだけポンと出てくる AI」から一歩進んで、プロセス込みで信頼できる開発パートナーを目指しています。


設計思想:4つのキーワード

Antigravity には、設計の核となる 4 つの原則があります。

1. Trust(信頼)

エージェントが何をしたか分からないと、怖くて本番コードには入れられません。

Antigravity では、エージェントの行動を「アーティファクト」として残します。例えば:

  • タスクリストや実装プラン
  • 実行したコマンドやログ
  • 変更されたファイルの差分
  • ブラウザでの調査内容や画面キャプチャ

「このバグ修正のために、どのファイルをどう調べ、どう直したのか」が後から追えるので、
レビューや監査にも耐えられる作りになっています。

2. Autonomy(自律性)

エージェントは、単に「ここ直して」レベルの補完にとどまりません。

  • プロジェクト全体を分析してタスクを分割
  • エディタでコード修正
  • ターミナルでテスト実行やビルド
  • ブラウザで仕様やライブラリのリサーチ

こうした一連の流れを、人間の指示を大枠だけ与えて任せるイメージです。
複数のエージェントを並列に動かすことも前提に設計されています。

3. Feedback(フィードバック)

「出てきたコードが微妙だから、また最初からプロンプトを書き直す」――
そんな往復を減らすために、Antigravity ではアーティファクトに直接フィードバックできます。

  • 「この設計案はこっちを採用して」
  • 「ここはもっと安全寄りの実装に」
  • 「このテストケースを追加して」

といったコメントをそのまま“次のタスク”として取り込んでくれるので、
人間はレビューと方向づけに集中できます。

4. Self-Improvement(自己改善)

使えば使うほど、チームやプロジェクトの“クセ”を学習していくことも想定されています。

  • プロジェクト固有のコーディング規約
  • よく使うリファクタリングパターン
  • チーム標準のテスト戦略・構成

こうしたナレッジをエージェント側に蓄積し、「そのチームらしい」提案が増えていくことを狙っています。


2つの顔:Editor View と Manager View

Antigravity の画面構成は、大きく 2 つの“顔”を持っています。

Editor View:VS Code 風 + エージェント

見た目はかなり VS Code に近いエディタです。

  • 左側にファイルツリー
  • 中央にコードエディタ
  • 右側や下部にチャット/ログ/アーティファクト

ここでエージェントに対して:

「認証まわりを OAuth 2.0 ベースにリファクタして、テストも整えて」

のように指示を出すと、エージェントがプロジェクトを読み込み、
設計 → 実装 → テスト → 動作確認まで、必要なステップを組み立てて動き出します。

Manager View:エージェントの「管制塔」

Manager View は、複数エージェント・複数タスクの状況を俯瞰する画面です。

  • どのエージェントが
  • どのリポジトリで
  • どんなタスクを
  • どこまで進めているか

を一覧で確認できます。

長時間かかるリファクタリングや、大規模テストの自動化など、
「裏でずっと動いている作業」をまとめて管理するためのダッシュボード、というイメージです。


アーティファクト:エージェント作業の“証跡”

Antigravity ならではの仕組みが、この アーティファクト です。

エージェントが行った作業は、すべて「人間が読みやすい形」で残されます。例えば:

  • 変更の意図と設計メモ
  • コマンドやテストの実行ログ
  • 差分パッチ案
  • 調査に使った Web ページの要約 など

これは単なるログではなく、**「レビューに耐えられる粒度の作業記録」**になっています。

  • なぜそのライブラリを選んだのか
  • どの仕様を根拠にこう実装したのか
  • 代替案は検討したのか

といった情報も含めて残せるため、
「ブラックボックスな AI 作業」を避けたい現場にとって、大きな安心材料になります。


モデルとエコシステム:Gemini 3 が“標準エンジン”

Antigravity は、Gemini 3 Pro を標準エンジンとしつつ、マルチモデル環境として設計されています。

  • Gemini 3 Pro:長大コンテキストと推論に強いフラッグシップ
  • 他社モデル:タスクに応じて切り替え可能

さらに、周辺ツールとも強く連携します。

  • CLI ベースで使える Gemini CLI
  • 既存 IDE 向けの Gemini Code Assist
  • モバイル開発向けの Android Studio 統合
  • バックエンドロジックとして組み込める Firebase AI Logic

Antigravity はその「ハブ」に近い存在で、
「複数エージェント+複数モデル+複数ツール」を束ねる開発 OS 的なポジションを狙っているように見えます。


開発フローのイメージ:TypeScript プロジェクトの場合

イメージしやすいように、TypeScript の Web アプリでの利用例をざっくり描いてみます。

  1. リポジトリを Antigravity で開く

  2. Editor View でエージェントに指示:

    • 「認証まわりを整理して、JWT ベースの構成に変更して」
  3. エージェントがタスク分解:

    • 現状コードの解析
    • 新しい設計案(アーティファクト化)
    • 実装パッチの作成
    • ユニットテスト/E2E テスト生成
  4. 人間がアーティファクトを読み、コメントで修正指示

  5. 同時に Manager View で別エージェントに:

    • パフォーマンステスト
    • ドキュメント更新
    • Changelog の草案作成
      を並列で任せる

人間は、**「全体の方向性を決めてレビューする人」**という役割に寄っていき、
細かい手作業はエージェントがどんどん肩代わりしていく、という世界観です。


いま時点での制約と付き合い方

Antigravity はパブリックプレビュー版なので、当然いくつかの注意点もあります。

  • 無償だが、今後の正式版の料金体系は未定
  • 大量のエージェントを並列に動かすと、レイテンシや安定性に課題が出る可能性
  • ターミナルやブラウザ操作を AI に開放するため、権限設計やサンドボックス構成が重要

チーム導入を考えるなら、最初から本番リポジトリの“フル権限”を渡すのではなく、

  • テストコード自動生成
  • ドキュメント整備
  • 小規模なリファクタリング

のような リスクの低いタスクから試す のが現実的です。
その中で、アーティファクトのレビュー運用や権限設計のベストプラクティスを固めていく、というステップが良さそうです。


まとめ:IDE から「開発 OS」へ

Antigravity は、

「AI 付きエディタ」
から
「エージェントが走り回る開発 OS」

への転換点を象徴するプロダクトです。

  • AI が設計・実装・テスト・検証までを通しで担当
  • 人間はレビューと意思決定に集中
  • その過程がアーティファクトとして可視化・保存される

Gemini 3 Pro の長大コンテキストと推論力を背景に、
「プロジェクト全体を理解したうえで動くエージェント IDE」 をローカル環境で試せる段階に来た、というのが今の Antigravity の立ち位置と言えるでしょう。

今後、正式版でどこまで安定性と運用性が磨かれるか次第で、
「IDE の標準のひとつ」として広く採用される可能性は十分あります。

参考リンク