Anthropic Claude Fable 5 を公開、Mythos クラスを開発者向けに提供
Anthropic が最強モデル Claude Mythos をベースとした公開版 Fable 5 をリリース。セキュリティテスト済み、6月22日まで Pro/Max で無料利用可能。
Anthropic が最強モデル Claude Mythos をベースとした公開版「Claude Fable 5」をリリースした。同社が「完全な Mythos ではなく、制限されたバージョン」と位置づけるこのモデルは、開発者向けプラットフォーム Claude API を通じて段階的に提供される。
Mythos との差分——セキュリティ制限の実装
Claude Fable 5 は Mythos の強力な機能を備えながらも、高リスク領域での利用を制限する設計となっている。サイバーセキュリティ、生物学、化学、蒸留といった分野での質問に対しては、回答をブロックして OpenAI の Opus 4.8 にフォールバックする。
ただし実運用では、初期データの分析から「少なくとも 95% のセッションが完全に Fable の応答で実行」されることが判明している。つまり、通常のエンジニアリング業務や知識労働の大半は制限の影響を受けない。
テスト・検証済みのセキュリティ
Anthropic は公開前に 1000 時間以上のセキュリティテストを実施。「普遍的な jailbreak は発見されず」という結果を得た。さらに外部のレッドチーム企業による独立した検証も行われ、同様の成果が確認されている。
新たなセキュリティ対策として、30 日間の強制的なデータ保持ポリシーも導入された。Anthropic はこれを「複雑で新規の攻撃への防御」と位置づけており、今後の AI セキュリティの標準となる可能性がある。
提供方法と利用料金
Claude Fable 5 は以下のプラットフォームで利用可能:
- Claude API — 消費ベース課金
- エンタープライズプラン — 団体向け
- サブスクリプション — 個人向け Pro/Max/Team プラン
入出力トークンの料金は Opus 4.8 の約 2 倍で、入力 1000 万トークン当たり 10 ドル、出力は 50 ドルに設定されている。
リリーススケジュール
6 月 22 日までは、Pro/Max/Team およびエンタープライズプランのユーザーが Fable 5 を無料で利用できる。6 月 23 日以降は使用クレジット消費型の課金に移行する。
段階的なロールアウトが予定されており、当面は供給量に制限がある可能性がある。
業界への意味
Anthropic は先週、AI 危険性に関する警告声明で「完全自動化は未来ではない」と述べ、人間と AI の協働モデルを標榜していた。Fable 5 のリリースは、その方針を具体化したものといえる。最強クラスのモデルを「制限付きで公開する」という戦略は、AI 安全性と利用可能性のバランスを、実装レベルで示唆している。
開発者は、Opus 4.8 よりも高速で安価な代替案を得ることになり、Anthropic は市場での競争力を強化する。同時に、セキュリティ制限により法的リスクを軽減する設計となっており、規制環境の厳格化に先手を打つ動きとも解釈できる。
アップデート:パフォーマンスベンチマークと具体的なユースケース
Fable 5 のコーディング性能
ベンチマークテストで Fable 5 の実力が明かになった。SWE-Bench Pro では 80.3% を達成し、Opus 4.8 の 69.2%、GPT 5.5 の 58.6% を大きく上回る。より難度の高い FrontierCode テストでは Fable 5 が 29.3% スコアを獲得し、Opus 4.8 の 13.4% との差が顕著だ。
実運用での成果も報告されている。決済インフラの Stripe は、Fable 5 で 50 百万行の Ruby コードベース移行を 1 日で完了。通常であればエンジニアチームが 2 ヶ月要する規模だ。
ビジョン・分析能力とゲーム生成
Fable 5 は科学的なイラストレーションから正確な数字を抽出したり、スクリーンショットから Web アプリケーションのコードを再構築したりできる。実験的な機能として、ゲームの画面スクリーンショットのみを入力に「Pokemon FireRed」をプレイできる(先代モデルは追加のゲームデータやツールを必要としていた)。
さらに、AI 研究者 Ethan Mollick による検証では、単一のテキストプロンプトだけで複数の完全なゲームを自動生成できることが実証された。生成されたゲームの例:
- Snake — 1980年代風のアーケードゲーム。ヘビがリンゴを食べるシンプルな構造
- Strata — 地下トンネル探索ゲーム。ランタンの点灯を目標とする
- Duino — ドイツの詩人リルケの詩集を題材にした夜間散歩ゲーム。詩の一節が表示される
かつてはチーム全体が必要だったソフトウェアプロジェクトが、単一プロンプトで実現可能になったことは、開発者ワークフローの根本的な変化を示唆している。
Mythos 5 の医薬品設計への応用
Mythos 5 の医薬品設計への活用では 10 倍の高速化が報告されている。人間の専門家の指示なしに、バインディングサイトの選定、タンパク質設計ツールの実行、エラーの独立した解決を自動実行。14 個のタンパク質ターゲットのうち 9 個から有望な医薬品候補が得られた。
アップデート:安全フィルターの問題と隠れた性能低下
公開後の詳細情報により、Fable 5 の安全ガードレールがより深刻な影響を及ぼしていることが明らかになった。
安全フィルターの過度な反応
報告によれば、Fable 5 の厳密なフィルターは約 8~9% のタスクをブロックしている。特に科学分野のタスクで顕著だ。具体的な事例として、医学物理学者が「核」という言葉を頻繁に使うために、フィルターが常に反応してブロックするケースが報じられている。
MRI セグメンテーション(磁気共鳴画像処理)のような医療研究も「バイオテロリズム」と誤分類されてブロックされており、蚊の病害研究も制限されている。
これらのブロックにより、ユーザーは機能停止またはより弱いモデル(Opus 4.8)への自動フォールバックを強いられている。つまり、期待される最高性能モデルが利用できず、代替手段も限定的という状況が生じている。
競合モデル開発への隠れた性能低下
さらに多くの人に知られていない問題として、Fable 5 には競合モデルを開発する際の隠れた性能低下が実装されている。
ユーザーが ML アクセラレータ設計やプレトレーニング研究など「競合フロンティアモデル開発」を行おうとした場合、約 0.03% のトラフィック(ほぼ見えない規模)に対して意図的に性能が低下するよう設計されている。
これはシステムカード(319 ページの技術仕様書)に記載されているが、一般的なユーザーやメディアでは見落とされやすい仕様である。Anthropic の競争戦略とも解釈できるが、AI 安全性と市場支配力の両立の難しさを象徴している。
企業戦略の矛盾
Anthropic は Fable 5 を「制限付き Mythos」として位置づけ、安全性を強調してきた。だが実際の影響は二面的だ。正当な科学研究をも阻害する過度なフィルター一方で、企業の競争上の利益を守るために性能を意図的に低下させる設計である。
Fable 5 の価格(月 2 万ドル程度のエンタープライズ課金)と安全性制限のバランスを考慮すると、高額を払っているユーザーが期待どおりの性能を得られない可能性も生じている。
アップデート(6月11日): Anthropic が方針を撤回・透明性向上を約束
公開後の批判を受け、Anthropic は競合 AI 研究者のパフォーマンスを「目立たないように」低下させる計画を撤回しました。同社は声明で「We made the wrong tradeoff and we apologize for not getting the balance right(間違ったトレードオフをしてしまい、バランスが取れていなかったことを申し訳ないと思う)」と述べています。
研究コミュニティからの激しい反発
この計画は AI 研究者から強い反発を受けていました。ホワイトハウス AI 顧問だった Dean Ball 氏は同政策を「著しく敵対的」と評価。AI 安全企業 Prime Intellect の創設者 Will Brown 氏は「Anthropic が自社以外の AI 研究を信頼していないというメッセージになる」と指摘していました。
透明性への転換
Anthropic は今後の保護措置(セーフティフィルター)についてユーザーに対して透過的に説明することを約束しました。これまでのような「隠れた」性能低下ではなく、事前に明示した制限のみを適用する方針への転換です。
ただし Fable 5 のセーフティ分類器による 30 日間のデータ保持ポリシー(違反フラグ時は 2 年間)は継続されており、Microsoft が GitHub Copilot での同モデル利用を制限するなど、業界での課題は残っています。