Google DeepMindは、ヒトゲノムで理論上起こりうるすべての一塩基変異について、その分子的な影響を予測するプラットフォーム「AlphaGenome Atlas」を公開した。対象となる変異は90億通りに上り、研究者はウェブサイトとAPIを通じて即座に予測結果を参照できる。

1ペタバイトの予測データセット

AlphaGenome Atlasが提供するデータセットの規模は約1ペタバイトで、これはタンパク質構造予測ツール「AlphaFold」のデータベースの30倍以上に当たる。数百種類のヒトおよびマウスの細胞・組織タイプにわたり、2500以上のDNA配列モチーフの情報を収録している。

各変異の影響は「AVI(AlphaGenome Variant Impact)スコア」という単一の数値で表示され、研究者は膨大な変異候補の中から重要度の高いものを効率的に絞り込める。スコアの根拠となった生物学的プロセス(RNAスプライシングや遺伝子発現量の変化など)も個別に確認できる機能帰属分析も備える。

稀少疾患研究への応用

DeepMindは、AlphaGenome Atlasを使うことでタンパク質をコードしない遺伝子領域(非コード領域)における疾患関連の遺伝的関連性の発見が22%増加した事例を報告している。稀少疾患の原因解明では、膨大な変異候補から優先順位をつける作業が研究のボトルネックになりやすく、Atlasはこの絞り込み作業を加速するツールと位置づけられる。

学習・検証には英国の大規模健康調査「UK Biobank」の参加者5万4000人以上のデータが活用された。DeepMindは今後、Google Cloud経由での商用ライセンス提供も予定しており、創薬企業による治療標的の探索といった産業応用も視野に入れている。

研究者への影響

AlphaGenome Atlasは、Google Antigravityのスキルとしても利用できる形で提供されており、既存の研究ワークフローに組み込みやすい設計だ。ゲノム変異の解釈は依然として人手による検証を要する作業だが、90億通りという網羅的なスケールで予測を事前計算しておくことで、研究者は個別に計算を回す手間なく必要な変異の影響を即座に参照できるようになる。