世界決勝の舞台で、AIが手を動かして見せた瞬間がありました。Gemini 2.5 Deep ThinkがICPC世界決勝で金メダル級の力を発揮したのです。競技は5時間制限で行われ、Geminiは人間参加者より10分遅れてスタートしましたが、10問すべて正解という驚きの成績を残しました。総解答時間は合計で677分と記録されています(複数エージェントの並列実行や検証時間を合算した数値です)。

舞台と結果を手短に

ICPCは大学対抗の国際アルゴリズム競技会です。参加校は約3,000校、参加国は100か国を超え、5時間で何問正解できるかを競います。正解のみが得点になり、上位4校が金メダルを受賞します。今年の世界決勝はアゼルバイジャン・バクーで開催され、139校がしのぎを削りました。

今回のGeminiは大会で10問すべてを正解しました。内訳では前半に8問を45分で処理し、残り2問を約3時間かけて仕上げています。人間と比べて短い遅延でスタートしながら、全問正解に至った点は注目に値します。

Problem C――難問をどう攻略したか

大会で特に注目されたのがProblem Cです。Problem Cは液体を配分するダクト網の最適配置を求める問題で、解空間が非常に広く最適解を探すのが難しい課題です。

Geminiはここで複数の手法を組み合わせました。ダイナミックプログラミングやミニマックス、三分探索といった古典的なアルゴリズムに加え、複数の“エージェント”が候補解を出し合って端末上で実行・検証しながら改善する多エージェント学習を採用しました。多エージェント学習とは、複数の独立した思考プロセスが互いの案を取り入れて解を高める手法です。これにより短時間で有効な解に収束させることができました。

どこが新しくて重要なのか

今回の成果は単なる速さの勝負ではありません。前処理や後処理、強化学習、多段推論、並列思考といった要素を統合して、抽象的な問題を実践の場で解ける形にした点が重要です。料理に例えるなら、素材選びから下ごしらえ、調理、盛り付けまで一貫してうまく回したようなものです。

このアプローチは、ソフトウェア開発の現場でのコーディングアシスタントや、研究・教育での問題解決支援へ応用できる期待を生みます。GoogleはGoogle AI Ultraの加入者向けに、Geminiアプリで軽量版のGemini 2.5 Deep Thinkを提供する案内を出しています。

ただし、慎重さも必要です

とはいえ、今回の結果には制約もあります。ICPC側は提出解の正確性と受理を確認していますが、大会での成功がそのまますべての実業務での信頼性を保証するわけではありません。検証プロセス、基盤モデルの透明性、そして倫理・安全性の配慮が不可欠です。

AIを開発パートナーとして本当に機能させるには、人間の監督と信頼できる検証枠組みが必要です。自動提案をそのまま採用するのではなく、設計段階でのチェックやテストを組み込むことが求められます。

見える未来と最後に一言

今回の事例は、AIが抽象的なアルゴリズム問題でも実戦的に力を発揮し得ることを示しました。即戦力の登場にワクワクする一方で、使いこなすためのルール作りも同時に進める必要があります。

読者の皆さんも、AIと一緒に問題を解く時代を身近に感じてみてください。次にこの舞台でどんな新しい発想が出るか、楽しみは尽きません。