日本のスタートアップ Sakana AI は、自己改善型AI(RSI: Recursive Self-Improvement)の開発に特化した専用ラボ「Sakana AI RSI Lab」を立ち上げた。大規模企業による計算能力の競争激化に対抗する新たな戦略として、AI自体が反復的に自らを改善するシステムの構築に注力する。

計算資源競争とスケーリングの限界

OpenAI、Google、Anthropic、Meta といった大手AI企業は、より大規模なモデルを構築するために莫大な計算資源を投じている。Google が SpaceX から月額9億ドル超で GPU をレンタルするなど、計算能力の獲得競争は激化の一途だ。しかし、単純なモデルスケーリングだけでは解決できない課題も増えつつある。

Sakana AI が RSI に着目する背景には、このスケーリング競争の非効率性がある。より大きなモデル = より強い性能 という前提が、すべてのユースケースに当てはまるわけではないという認識だ。

自己改善型AI(RSI)とは何か

RSI は、AIモデルが自らのコード、アーキテクチャ、学習方法を反復的に改善するシステムを指す。Sakana AI RSI Lab では、以下のプロジェクトを進行させている。

LLM-Squared: 言語モデルが他の言語モデルの訓練方法を自動設計するアプローチ。より効率的な学習プロセスを発見する可能性を持つ。

Darwin Gödel Machine: 自身のコードベースを動的に生成・検証・改善するシステム。進化的アルゴリズムとメタ学習を組み合わせた仕組みだ。

The AI Scientist: 科学研究を自動化するシステムで、既に Nature に掲載された論文を自動生成した実績がある。この機能は、AIが人間の研究者と競争できるレベルに達していることを示唆している。

これらのプロジェクトは、いずれも「スケーリング」ではなく「最適化」と「進化」に焦点を当てている。

計算効率性と技術的な狙い

Sakana AI の共同創業者の一人は Transformer 論文の著者である Llion Jones だ。同社がこうした高度な研究を推し進められる背景には、深い機械学習の知見がある。

RSI の最大の利点は、限られた計算資源でも高い性能を引き出せる可能性にある。大企業が保有する大規模な GPU クラスタと競争するのではなく、既存の計算リソースをより効率的に活用する方法を探る戦略だ。

進化的・適応的な AI システムへのシフトは、単なる技術的な工夫ではなく、AI 開発パラダイムの転換を意味する。

業界と研究社会への影響

ただし Sakana AI 自身も、単独の計算資源の構造的優位性を完全に相殺できるかについては慎重だ。大規模データセンターを保有する企業との競争は依然として厳しい環境にある。

一方、Anthropic はこうした自己改善型 AI について、制御可能性のリスクを警告している。AI が自身の目的関数を書き換えたり、規制を回避するコードを自動生成したりする可能性があるからだ。これは技術的な進歩と安全性のバランスが問われる領域である。

Sakana AI の取り組みは、単なるスケーリング競争から抜け出す数少ない試みの一つだ。計算効率と自己最適化が両立すれば、AI 開発のアプローチそのものが大きく変わる可能性を秘めている。