インターネット通信プロトコル TCP/IP の設計者として知られる Vint Cerf が、インターネット上で独立して動作する AI エージェント向けの身元確認標準「DNSid」の開発をサポートしている。このシステムは、現在ハイパースケーラー企業に支配されているエージェント標準化の領域に、オープンで中立的な選択肢をもたらす可能性が指摘されている。

エージェント時代に求められる「アカウンタビリティ」

現在、AI エージェントはほぼ例外なく企業の専有システム内に留まっている。ChatGPT のエージェント機能、Google のマルチターン検索エージェント、Anthropic の Claude Code エージェントなど、すべて特定企業のインフラ内で動作する。

しかし AI 業界の次の段階は、複数のエージェントがインターネット全体で相互に対話し、外部の企業システムにアクセスしながら自律的に動作する世界だと見られている。その際、根本的な問題が生じる。Cerf が強調するのは、以下の 3 つの質問への答えが欠けていることである:

「エージェントが持つ権限は何か。その権限はどこから由来するのか。エージェントの振る舞いに対して誰が責任を持つのか。」

現在、これらの質問に答えるための標準化された仕組みが存在しない。

DNSid の仕組み

DNSid は、既存のインターネット基盤を活用してこの問題を解決しようとしている。システムは以下の要素から構成される:

  1. 各 AI エージェントを既存のドメイン名にリンク
  2. 暗号化された証明によって登録履歴を時系列で記録
  3. エージェントの権限の出所をドメイン所有者の身元に結び付ける

これにより、インターネット上で動作するエージェントが「誰の承認で」「何の権限を持って」行動しているかが追跡可能になる。

業界支配への抵抗

Identity Digital の CEO は、この標準化の意図を「ハイパースケーラー企業が独自の標準を制定し、その検証データを独占することへの抵抗」と述べている。Google、OpenAI、Anthropic などのハイパースケーラーは、AI エージェント標準の設定によって市場支配力を強化できる立場にある。オープンで中立的な DNSid は、この支配に対する対抗軸となり得る。

Cerf 自身は、現在のインターネット基盤(DNS、TCP/IP など)の設計者の立場から、次の時代のインターネット基盤(エージェント間の信頼・権限の構造)を設計することで、分散的で説明責任を持つ AI エージェント生態系の形成を意図している。