買収成立――ドイツAIの転機

カナダを拠点とするAI企業 Cohere が、ドイツのスタートアップ Aleph Alpha を買収しました。かつて「ヨーロッパの OpenAI」として注目されていた企業が、北米企業の傘下に入ることになります。

この買収には小売大手 Schwarz Group が 6 億ドルを投資しており、同グループはALeph Alpha の 20% 以上を保有し、クラウドインフラ「STACKIT」を通じた技術支援も予定されています。

創業者の強制退出――内部紛争の歴史

Aleph Alpha は 2019 年、Jonas Andrulis によって設立されました。しかし Schwarz Group の影響力が増すにつれ、創業者の権力は減少していきました。

2024 年 9 月に経営方針が転換され、翌月には共同 CEO として Reto Spoerri が加わり、最終的に 2025 年 10 月に Andrulis は CEO 職から完全に排除されました。Andrulis は「“I’m out.”」と一言述べた後、コンサルティング企業 Roland Berger とともに新たな AI スタートアップを立ち上げています。

Cohere の戦略――「Sovereign AI」で欧州市場へ

Cohere は今回の買収を通じて、「Sovereign AI」へのフォーカスを強化しています。これは、顧客が自身のデータとインフラを完全にコントロール下に置き、プライバシーと独立性を確保するシステムです。

政府や規制が厳しい産業向けに、エンタープライズソリューションを提供することで、欧州市場での足がかりを確保する狙いがあります。

欧州 AI 産業の現実――米国への依存構造

この買収は象徴的な出来事です。ヨーロッパの「GPT-3 の代替」として一度は期待された企業が、結果的にカナダの企業に買収されることは、欧州 AI 産業における米国への経済的依存の深さを示しています。

Aleph Alpha のような有力企業でさえ、成長段階で資金と市場力を備えた海外企業に吸収される構図が繰り返されており、欧州の AI サプライチェーン全体の脆弱性が浮き彫りになります。

アップデート(2026年4月26日)

買収成立からの更新として、Cohere の財務規模と戦略的位置づけが明らかになりました。

Cohere は買収前の Series E 資金調達ラウンドで約 200 億ドルの新評価額を獲得。前回ラウンドの 68 億ドルから約 3 倍に急上昇しており、AI エージェント市場への投資家の期待の高さを反映しています。2025 年の年間経常収益(ARR)は 2 億 4,000 万ドルで、OpenAI や Anthropic との直接的な競争期待も窺えます。

Cohere CEO の Aidan Gomez 氏は「Aleph Alpha の小規模言語モデル、ヨーロッパ言語対応、トークナイザーへの焦点が、我々の大規模言語モデル中心のアプローチと相補的である」とコメント。小さなモデルと大規模モデルの組み合わせで、欧州市場への対応力を強化する戦略が見て取れます。

一方で、カナダ企業である Cohere がヨーロッパの「Sovereign AI(ソブリン AI)」構想にどこまで信頼を得られるか、また将来の上場時に各国の独立性規制をクリアできるかは未知数です。米国企業とは異なるポジショニングながら、やはり北米企業であることの制約が、長期的な欧州市場支配力の課題として残ります。