Ilya Sutskever と Mira Murati(OpenAI の CTO から昨年離脱)が立ち上げた Thinking Machines が、975 億パラメータのオープンウェイトモデル Inkling をリリースしました。

このモデルは、米国のオープンウェイト(誰でも無料で使える)AI の中で、最高水準のエージェント性能を実現しています。

仕様と性能:「エージェント向け」に特化

アーキテクチャ

Inkling は以下の仕様を持つ Mixture-of-Experts(複数の専門家を動的に選ぶ)型 Transformer です。

  • パラメータ数:975 億(同時にアクティブなのは約 41 億)
  • マルチモーダル対応:テキスト、画像、音声をネイティブ処理可能
  • コンテキスト:100 万トークン対応

ベンチマーク

Artificial Analysis の独立評価では、Inkling は総合スコア 41 を獲得しました。ただし重要なのは分野別の性能です。

エージェント性能(特に強い)

  • GDPval-AA v2 タスクで 1,238 Elo レーティング を達成
  • 「米国のオープンウェイトモデルで最も強力」と評価

弱点

  • 事実精度は 40%(正確性が低い)
  • ハルシネーション率 63%
  • つまり、「細かい事実は間違える可能性が高い」という実装上の制限

中国モデルとの競争状況

Inkling はいくつかの面で中国モデルに後れを取っています。

  • エージェントタスクでは Kimi K2.6 と DeepSeek v4 Flash max を上回る
  • 全体的なパフォーマンスでは、中国の最先端モデル(Kimi K3、DeepSeek v4 など)に及ばない
  • コストも、同等性能の中国製オープンソースモデルより若干高め

つまり「エージェント向けには強いが、汎用性では中国に後れている」というポジション。

ユーザーがアクセスする方法

Hugging Face で無料公開

Tinker プラットフォーム

  • Thinking Machines は「タスク特定の適応」向けにプラットフォーム経由でアクセスを提供

つまり、開発者は今日から「無料で試す」ことが可能です。

何が起きているのか

この動きは「AI 研究の次のフェーズ」を示唆しています。

フロンティアモデルは企業の手中へ

最先端モデル(GPT-5.6、Claude Opus)は OpenAI や Anthropic が管理し、一般向けには API でのアクセスのみ。

オープンウェイトは分業化へ

一方、Inkling のような「オープンウェイト」は「特定領域に特化した強さ」を目指す方向へ。エージェント向け、コーディング向けなど、細分化が進みます。

国家間の競争がリアルに

中国の Kimi や DeepSeek がフロンティアレベルに達したことで、「どの国の技術を使うか」が企業の選択肢になりました。Inkling は米国の「エージェント領域でのキープレイヤー」としての存在を示しています。

開発者にとっての意味

  1. 無料で高性能なエージェントモデルが使える

    • ファインチューニングや改造も自由
  2. 単一ベンダー依存の軽減

    • OpenAI や Anthropic だけに頼らず、複数のモデルを組み合わせる戦略が現実的に
  3. ハルシネーション対策が実装側の責任

    • 事実精度が低いので、ユーザー企業側での検証・フィルタリング機能が必須

Thinking Machines の登場は、「トップティアの研究者が次々とスタートアップを立ち上げ、それぞれが得意領域を深掘りする」という AI 産業の新しい構図を象徴しています。