xAIが利用規約を大幅改定、エージェント行為の責任転嫁と競合AI開発禁止を明文化
xAIがAcceptable Use Policyを6月23日、Terms of Serviceを6月26日付で改定。Grokの自律行動「Agentic Actions」の責任をユーザーに転嫁し、実在人物の性的画像化への規制を具体化した。
xAIが利用規約を大幅に改定した。Acceptable Use Policy(AUP、利用許容ポリシー)は2025年1月2日版から2026年6月23日付で、Terms of Service(TOS、利用規約)は2026年4月10日版から2026年6月26日付で、それぞれ更新されている。旧版・新版の原文を比較すると、文言整理にとどまらず、Grokの自律行動機能「Agentic Actions」の責任所在の明確化や、実在人物の性的画像・なりすまし対策の具体化など、実質的な内容変更が確認できる。
Agentic Actions の新設——責任はユーザー側に
最大の変更点は、TOSに「Agentic Actions」という概念が新設されたことだ。旧版(4月10日版)には存在しなかった定義で、Grokがユーザーに代わって自律的に実行する行為として、ウェブ閲覧、コード実行、通信の送信、ファイルの変更、ツール呼び出し、データ処理、金融機関を含む第三者サービスとのやり取りが列挙されている。
新版TOSは「xAIはUser ContentまたはAgentic Actionsについて責任を負わない」と明記し、それらが適用法や規約に違反しないことを確保する責任、および違反から生じるあらゆる結果・コスト・責任はユーザー側にあるとしている。免責条項(Disclaimer of Warranties)も、旧版では「Service」のみが「as is」(現状有姿)提供の対象だったのに対し、新版では「Service, Outputs and Agentic Actions」に拡張された。責任制限(Limitation of Liability)の条文も大幅に長文化し、ハッキングや不正アクセス、コンテンツの誤り、身体・財産損害など、免責対象の列挙が旧版より格段に詳細になっている。GrokのBuild機能などエージェント関連機能の拡張に合わせ、xAIが自律行動のリスクを規約上でユーザー側に移す構えを鮮明にした形だ。
競合AI開発・蒸留の禁止をAUPにも明記
新版AUPには、「xAIのサービスや出力を用いて競合する機械学習モデルやAIサービスを開発すること」「入力・出力のスクレイピング・収集・再販売、モデルデータや出力の蒸留(distillation、他社AIの出力を使って自社モデルを訓練する手法)」を禁じる条項が新設された。旧版AUP(2025年1月2日版)にはこの種の規定は存在しない。
なお、同様の禁止規定自体は旧版TOS(2026年4月10日版)に既に存在しており、今回は禁止対象をAUPにも明記し、対象範囲を「モデル」から「関連するAIサービス」全般に広げ、「harvesting(収集)」という文言を追加するなど、規定を強化・重複させた形と見るのが正確だ。
この規定は皮肉な文脈も伴う。2026年4月30日、イーロン・マスク氏はカリフォルニア州連邦裁判所での証言で、xAIがOpenAIのモデルから「部分的に」蒸留を行ってGrokを訓練したと述べている。証言はOpenAIのサム・アルトマン氏らを相手取った別訴訟の中で明らかになったもので、xAI自身が他社モデルへの蒸留に関与した疑いを認めた形になる。その数週間後、xAIは自社サービスに対する同様の行為をユーザーに禁じる規定をAUPに新設したことになる。
実在人物の性的画像化・なりすまし対策を具体化
旧版AUPは「人物の肖像をポルノ的に描写すること」を禁じる一文があるのみだったが、新版は「実在人物を脱がせる・ヌード化する、あるいは画像や肖像を性的・親密な文脈に改変すること」「実在人物を欺瞞的になりすますこと」「名誉毀損的・虚偽の印象で人物を描写すること」を個別に列挙し、大幅に具体化した。
この種の懸念自体は今回の改定以前から存在しており、2026年1月時点で既にxAIの「デジタル脱衣」問題への対応不足がメディアで指摘されていた。今回の改定は、既存の禁止規定をより具体的な文言に落とし込んだものと位置付けられる。あわせて、ガードレール回避を認める条件も、旧版の「official blessing(公式のお墨付き)」という緩い表現から、新版では「official written consent(公式の書面同意)」へと厳格化された。bot・スクリプトなど非人間的手段によるサービスへの自動アクセス禁止も新たに明記されている。
ユーザーコンテンツの利用許諾範囲が拡大
TOSのユーザーコンテンツに関する利用許諾条項も拡張された。旧版が「使用・複製・保存・改変・配布・複製・公開・派生物作成」などを許諾範囲としていたのに対し、新版は「process(処理)・adapt(翻案)・transmit(送信)・upload(アップロード)・download(ダウンロード)」を追加し、「今後開発されるあらゆる媒体・配布方法」での利用も対象に含めた。さらに、ユーザーコンテンツに人物の画像・肖像・声などが含まれる場合、それらについても同じ権利をxAIに許諾するという条項が新設されている。
レビュー権限に関する文言も変化した。旧版は「A limited number of our authorized personnel(限られた人数の認可された担当者)」がユーザーの利用状況をレビューできるとしていたが、新版では「limited number of」が削除され、単に「Our authorized personnel」がレビューできるという表現になっている。
紛争解決条項とコンテンツ削除規定の変更
紛争解決に関する条項には、「where permitted by applicable law(適用法で許容される限り)」「unless prohibited by your country’s applicable law(居住国の適用法で禁止されていない限り)」という留保が新たに追加された。集団訴訟・陪審裁判の放棄条項や準拠法条項に付され、各国・地域の消費者保護法との整合性を意識した調整とみられる。
また、xAIの「米国関連会社」が紛争解決条項における第三者受益者として新たに明記され、法的保護の対象が広がった。一方で、旧版の「Who We Are」条項にあった「xAIはX Corp(旧Twitter)とは別会社である」という明示的な一文は、新版では削除されている。なお、訴訟提起期限(連邦請求は1年、州法上の請求は2年)自体は旧版4月10日版から既に存在しており、今回の改定による変更点ではない。
コンテンツ削除に関する規定も整理された。旧版にあった、著作権侵害の申立てに必要な項目(署名、対象作品の説明、侵害箇所の特定、連絡先、宣誓供述など)を詳細に定めた「Copyright Complaints」条項は新版から姿を消し、代わりに、規約・AUP違反コンテンツの削除およびAgentic Actionsの無効化に関する一般的な「Removal of Content」条項に置き換えられている。
読者への影響
今回の改定は、GrokのBuild機能やエージェント機能の拡張に対応した「リスクの契約上の押さえ込み」と見ることができる。開発者やビジネスユーザーは、Grokに自律的なタスクを任せる際、結果責任が基本的に自分側にあることを前提に利用設計をする必要がある。また、他社AIサービスの開発でxAIの出力を参照・活用する行為は、AUP・TOSの両方で明確な禁止対象となっている点にも留意すべきだろう。