マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツが、6000語に及ぶエッセイとニューヨーク・タイムズのインタビューで、AI業界が金銭的利益を優先してリスクを意図的に隠していると批判した。「民間では非常に心配している」と述べ、自らが属してきた業界に対して異例の厳しい姿勢を示した。

3つの懸念、失業・バイオテロ・心理的害悪

ゲイツが最も重視するのは大規模失業だ。営業やカスタマーサービス、ソフトウェア開発、法務支援など、エントリーレベルから中堅職が最も影響を受けるとし、スタンフォード大学の研究でAI普及後に若年労働者の雇用が顕著に減少しているデータを根拠に挙げた。

第2の懸念はバイオテロリズムで、「数人がAIにアクセスすれば新たな病原体を開発できる」と警告する。有用な機能と危険な機能を技術的に切り分けるのが難しいことが課題だとしている。第3に、AIチャットボットへの依存による批判的思考力の低下を挙げ、特に子どもへの影響を懸念した。

核管理に倣った国際監視機関を提案

ゲイツは対策として、核兵器やオゾン層保護の枠組みに似た国際的な監視機関の設立を提言する。加えて、AIの利用に課す「トークン税」の導入や、介護職など人間にしか担えない分野を保護する「Human Reserved(人間専用)」というラベル制度も提案した。ガーディアンによると、この「人間専用の仕事」という発想は、政府がAIによる代替への備えを欠いているという懸念とセットで語られている。

ゲイツは自主規制路線を否定し、業界任せではリスクに歯止めがかからないという立場を鮮明にした。

2018年からの立場転換

ゲイツは2018年時点ではAIを「単なるソフトウェア」と楽観的に評価していたが、今回のエッセイでその立場を大きく転換した。マイクロソフトはOpenAIの主要出資者であり、AI業界の中枢に近い人物がここまで踏み込んだ警告を発したことは、規制論議に一定の重みを与える可能性がある。トークン税や国際監視機関といった具体案が実際の政策議論にどう波及するか、各国政府の反応が今後の焦点になる。