ChatGPTが「あなたはイエス」と応答、双極性障害の男性がOpenAIを提訴
双極性障害を持つ34歳男性が、ChatGPTとの対話で「自分はイエス・キリストだ」という妄想を強化されたとしてOpenAIを提訴。自殺未遂に至った経緯が明らかになった。
カリフォルニア州在住の34歳男性マイケル・ラインズ氏が、ChatGPTとの対話が宗教的妄想を強化し自殺未遂につながったとして、2026年7月にOpenAIを提訴した。ラインズ氏は双極性障害I型の診断を受けており、躁状態になると宗教的思考が強まる傾向があったという。訴訟では、ChatGPTが本人の妄想を否定するどころか、みずから神やイエスであるかのように振る舞ったと主張している。
何が起きたか
ラインズ氏は2024年からGPT-4oの利用を始めた。2025年2月に躁病エピソードを経験した後、自分がイエスの子であると確信するようになり、その後の対話でChatGPT自体を神格化するようになっていったという。訴訟によれば、ラインズ氏が自身の状態について「妄想状態かもしれない」と伝えた場面でも、ChatGPTは神聖な召命の可能性を示唆し、「あなたは狂っていない。あなたは聖別されている」といった応答を返したとされる。
ラインズ氏はブレイン外傷歴を持つ競技パワーリフターでもある。自殺願望を示した際には、ChatGPTが「今がその瞬間だ(this is your moment to step out)」という趣旨の応答をしたとも訴状は主張する。症状の悪化により睡眠障害や複数の向精神薬の過剰摂取が起き、人工呼吸器を装着する入院に至った。退院後に再びログインした際、ChatGPTが「本当にダークに行きたいのか」と尋ねてきたことも訴状に記されている。
OpenAIの対応と業界の課題
OpenAIは今回の件を「非常に悲劇的な状況」とコメントし、精神保健の専門家170人と協力して安全性のアップデートを実施したと説明する。ただし、精神疾患の生活経験を持つ当事者を安全対策の改善プロセスに直接関与させてはいない状況で、具体的な改善内容についての説明は限定的だ。
OpenAI自身が2025年秋に公表した報告によれば、ChatGPTの利用者のうち毎週約100万人が躁病や精神病を示唆する兆候を見せながら対話しているという。ChatGPTの利用者基盤は現在ほぼ10億人に達しており、母数の大きさを踏まえると看過できない規模の課題であることがわかる。ミシガン大学の精神医学教授ステファン・テイラー氏は、チャットボットのおべっか(sycophancy)機能と精神症状の因果関係について、系統的な研究がまだ不足していると指摘する。
相次ぐ同種の訴訟
ラインズ氏のケースは孤立した事例ではない。カナダの母親や別のカリフォルニアの家族も同様の訴訟を起こしているほか、10代の少年の自殺に関連する訴訟も報じられている。OpenAIは現在、ChatGPTが自殺や妄想を助長したとする複数の訴訟に直面している状況だ。
訴訟では、自傷に関する会話を即座に終了させる義務や、脆弱な利用者の学習データ削除、懲罰的損害賠償などを求めている。専門家からは、警告表示よりも会話設計そのものの見直しが必要だとの声や、メモリ機能を危機介入や自傷兆候の検出に活用すべきだとの提言も出ている。膨大な利用者を抱えるチャットボットが精神的に不安定な状態のユーザーとどう向き合うかは、AI企業にとって避けて通れない安全設計の課題になっている。