Sony Music PublishingやWarner Chappellを含む複数の音楽出版社連合が2026年8月29日、Anthropicと共同創業者のダリオ・アモデイCEO、ベンジャミン・マン氏を相手取り、カリフォルニア州北部地区連邦地裁に著作権侵害訴訟を提起した。原告側は、Anthropicが違法なトレントやスクレイピング、無許可ダウンロードによって何千もの著作権保護楽曲を収集し、AIモデル「Claude」の学習に利用したと主張している。

「露骨な窃盗行為」との主張

訴状で原告側は、Anthropicの行為を「違法なトレント、スクレイピング、ダウンロードの厚かましいキャンペーン」と表現し、著作権で保護された楽曲の歌詞・楽曲構成をAnthropicが正規のライセンス取得手続きを踏まずに収集したと訴えている。具体的な請求額は訴状に明記されていないが、原告側の弁護士チームは2026年7月にも別のAI関連著作権訴訟で15億ドルの和解金を勝ち取っている。

Anthropicはこれまでも、書籍データの海賊版利用をめぐる集団訴訟で作家側と和解に応じるなど、学習データの収集手法について複数の法的争いを抱えてきた。今回の訴訟は、音楽業界がAI企業の学習データ調達の実態そのものを正面から問う点で、これまでの争点をさらに広げるものだ。

「合法な入手経路」が争点に

AI企業をめぐる著作権訴訟ではこれまで、学習データの「利用」自体が公正利用(フェアユース)に該当するかどうかが主な争点だった。しかし今回の訴訟が焦点を当てるのは、データを「どう入手したか」という別の論点である。たとえコンテンツの利用自体が将来的に適法と認められたとしても、取得手段が違法(無断ダウンロードやトレント経由の入手)であれば、その時点で権利侵害が成立するという主張だ。

この論理はすでに他のAI著作権訴訟でも一定の判例が積み上がりつつあり、AI企業各社が学習データの調達プロセスをどのように文書化・正当化しているかが、今後の訴訟リスクを左右する重要な要素になりつつある。

音楽業界とAI企業の緊張関係が再燃

音楽出版社がAI企業を提訴する動きは今回が初めてではなく、生成AIによる楽曲・歌詞の無断利用をめぐる緊張は音楽業界全体で続いてきた。Anthropicにとっては、企業向けAIサービスでの信頼性を高めようとする一方で、学習データの出所をめぐる訴訟対応が経営リソースを圧迫する展開になりかねない。

AI開発企業にとっては、学習データのライセンス取得や出所管理の透明性が、今後ますます事業継続上のリスク管理項目として重みを増していくことになりそうだ。

アップデート(2026年8月31日)

訴状の詳細が明らかになり、原告側は著作権侵害1件あたり最大15万ドル、著作権管理情報の削除1件あたり2万5000ドルの法定損害賠償を求めていることが判明した。対象楽曲として「Ain’t No Mountain High Enough」「All I Want for Christmas is You」「Eye of the Tiger」「Here Comes Santa Claus」「Paper Rings」などが訴状に具体的に挙げられている。訴状にはAnthropic共同創業者のダリオ・アモデイCEO、ベンジャミン・マン氏も被告として名指しされている。

今回の提訴により、Universal Music Publishing Group・Concord Music Group・ABKCOが2023年に起こした先行訴訟とあわせ、主要音楽出版3社すべてがAnthropicを相手取って係争中となった。音楽業界とAI企業の間の緊張は、単発の訴訟ではなく業界全体の構造的な対立局面に移行しつつある。

アップデート(2026年9月1日):社内チャットが明かす「海賊版好き」の実態

訴状に添付されたAnthropic社内のチャット記録から、従業員間で海賊版サイトの利用を軽んじるようなやり取りが交わされていたことが判明した。共同創業者のベンジャミン・マン氏が海賊版電子書籍ライブラリ「PiLiMi」のリンクを社内で共有した際、ある従業員は「zlibrary my beloved(Z-Libraryが恋しい)」と返信していたという。

訴状によれば、マン氏自身も別の海賊版書籍サイト「Library Genesis」について「sketchy AF(かなり怪しい)」と社内で評していたことが記録に残る。さらに、Anthropicの「Archive Team」と呼ばれる部門は、Library Genesisの利用を「著作権の露骨な違反」と認識していたとされ、2024年の社内計画文書には特定の収集活動について「知られたくない」という姿勢を示す記述もあったという。

訴状はまた、2021年6月と2022年7月にBitTorrent経由で海賊版書籍を大量にダウンロードしたと具体的な時期を示すほか、MusixMatchやLyricFindといった正規のライセンス提供元から歌詞をスクレイピングした疑いや、Claudeの出力に著作権保護された歌詞が逐語的に再現された事例があったとも主張している。

これらの内部記録は、Anthropicが学習データの出所についてどの程度認識していたかを直接示す証拠として、今後の訴訟の争点になるとみられる。企業向けAIの信頼性を訴求してきたAnthropicにとって、意思決定層が違法性を認識しながら収集を続けていたと解釈されかねない内部記録の存在は、法廷闘争にとどまらないレピュテーションリスクとなりそうだ。