Anthropic、AIエージェントが実験機器を操作する共通規格「MHS」を研究プレビュー公開
AnthropicがAIエージェントと物理デバイスをつなぐ共通規格「Model Hardware Standard」の研究プレビューを公開。統合作業を数週間から数時間に短縮し、量子コンピュータのレーザー調整成功率を58%から99.3%に高めた実例もある。
Anthropicは、AIエージェントが実験機器や製造装置などの物理デバイスを安全に操作するための共通規格「Model Hardware Standard(MHS)」の研究プレビューを公開した。異なるメーカーのハードウェアを統一インターフェースで制御できるようにすることで、これまで数週間かかっていた機器統合作業を数時間から数分に短縮するという。
読み書きの単純なコマンドでハードウェアを制御
MHSは、顕微鏡や液体ハンドラー、ロボットアームといった科学実験・製造機器と、Claudeなどの言語モデルの間をつなぐ標準化されたドライバソフトウェアだ。「読み取り」「書き込み」といった単純なコマンドプリミティブを採用し、Model Context Protocol(MCP)やコマンドラインインターフェース、APIコードファイルから制御できる。プログラマブルなインターフェースを持つ機器であればメーカーを問わず対応し、特定のAIモデルに縛られない設計になっている点も特徴だ。デバイスごとの安全限度値も自動的に強制される。
Anthropicは当初、科学・ロボティクス・製造業の一部の組織に限定してMHSを提供し、将来的にはオープンソース化して、あらゆる業界の機器メーカーが採用できるようにする方針を示している。OpenAIやAmazonがAIネイティブなハードウェアや製造ツールに巨額を投じる中、Anthropicがハードウェア分野への関与を深める動きとしても位置づけられる。
量子コンピュータの調整成功率が58%から99.3%に
研究プレビューでは、複数の実証結果が公開されている。量子コンピュータを手がけるQuEra Computingでは、レーザー調整の成功率が従来の58%(所要時間150秒)からMHS導入後は99.3%(所要時間6秒)まで向上し、決定木構造による適応的なエラー回復が処理速度を16倍に高めた。バイオ企業Genentechでは、Claudeが液体ハンドリングのパラメータを自動最適化し、水の最適流速を誤差0.016 RMSEで、粘性の高いBSA溶液の最適流速を誤差0.181 RMSEで導き出した。
Carnegie Mellon Universityではセリアル希釈実験が約3倍高速化し、通常なら数週間かかる機器統合を8時間で完了させた。University of Washingtonでは6台のデバイス統合を1週間以内に済ませ、qPCR曲線の自動監視やロボットアーム同士の衝突回避も実現している。Tetsuwan Scientificは9143件の分散実験・300種類の転送タイプを検証し、コンパイラの精度がメーカー公表仕様より12〜17%向上したと報告した。
研究機関・製造業への影響と残る課題
Anthropicは、MHSによって研究機関や製造業がハードウェア統合にかかる時間と専門人材への依存を減らせるとする一方、Claudeが物理的・化学的な制約下での推論に課題を抱えていることも明らかにしている。泡立ちなど物理現象由来のエラー判断には依然として専門家の指導が必要で、プログラミングインターフェースを持たない機器には対応できない。リアルタイム監視にかかる計算コストも今後の課題として挙げられている。
それでも、これまで数百万ドル規模の投資が必要だった多機能自動化ラボが、比較的手頃なコストで構築できる可能性を示した意義は大きい。量子コンピューティングのような精密機器の保守運用が自動化される展開にもつながりうる。