AIが新卒を直撃するはずが、失業データは平年並みという逆説
CESifoの研究は新卒者へのAIによる広範な雇用悪化を否定した一方、AIに晒されやすい職種では採用率が14%低下したとの報告もあり、実態はまだら模様だ。
「AIが新卒者の仕事を奪う」という懸念が広がる中、ドイツの経済研究機関CESifoが発表した新しい研究論文は、これまでのところ大卒者全体を巻き込むような広範な雇用悪化の証拠は見当たらないと結論づけた。一方で、AIの影響を受けやすい職種に絞ると採用率の低下が観測されており、データは一様ではない。
新卒に絞って調べた理由
CESifoの研究者Robert FairlieとJane Wu(音写)は、論文「Recent College Graduates’ Employment」の中で、新卒者に焦点を当てた理由を「労働需要の変化はまず新規採用の抑制として現れやすいから」と説明している。既存社員の解雇より先に、企業が新卒採用を絞る形で影響が表面化するとみて、大卒直後の求職者の統計を丹念に追った。
結果として、2026年夏時点の若年大卒者の失業率は6.3〜7.8%のレンジに収まっており、過去数年の変動幅を大きく超えるものではなかった。論文は「新卒者集団に対する有意で広範な雇用への悪影響、あるいは採用抑制の証拠は見当たらない」と明記している。
職種を絞ると見え方が変わる
もっとも、全体の平均に隠れた偏りも報告されている。22〜25歳でAIの影響を受けやすい職種に就こうとする層に限ると、求人への採用率が前年比で14%低下したとのデータもある。CNBCが報じた別の調査でも、22〜27歳の大卒者の失業率が2026年6月時点で5.7%に達し、42%が自身の学歴を超えないレベルの職に就く「過剰教育」状態にあるとされた。
求人側の変化も顕著だ。春の求人のうちAIスキルを必須とするものは16.5%に達し、前年秋の10.5%から急増している。ニューヨーク連邦準備銀行の分析では、AIを導入した企業はむしろ採用を増やす傾向にあるものの、その大半はシニア人材の獲得に振り向けられており、AIそのものが新卒採用不振の主因とは言い切れないとの見方を示している。
読者への影響
「AIが新卒の仕事を奪っている」という単純な物語は、マクロな失業率データだけを見る限り裏付けられていない。ただし、AIの影響を受けやすい職種を選ぶ学生や、汎用的なスキルに乏しい新卒者にとっては、採用のハードルが静かに上がりつつあるのも事実だ。今後入社する2027年以降の世代がさらに強い影響を受ける可能性も研究は示唆しており、平均値の安定と個別職種の逆風が同時に進む状況が当面続きそうだ。