Anthropicは、AIが米国経済に与える影響を2030年まで見通す独自の経済モデルを公表した。「控えめ」「中程度」「極端」の3シナリオでGDP成長率や雇用への影響を試算しており、最も過激なシナリオでは知識労働者の失業率が17.9%に達すると見積もっている。

3つのシナリオの中身

「控えめな変化」シナリオでは、2030年のGDPはAIがない場合と比べて1.6%高い水準にとどまり、労働所得もほとんど変化しない。Anthropicはこのシナリオでは経済成長そのものより、AIがもたらす恩恵をいかに公平に分配するかが課題になると分析している。

「大幅な変化」シナリオは、2023年当時に金融機関やコンサルティング企業が示していた予測に近い水準で、2030年のGDPは1.6%ではなく8.3%高くなる。AIが知識労働の半分をこなせる能力を持つに至るが、実際の導入はそこまで進まない想定だ。経済成長率は通常の2倍になる一方、知識労働者の賃金は横ばいで、それ以外の労働者の賃金は上昇するとしている。

最も極端な「劇的な変化」シナリオでは、AIが知識労働の大半のタスクで人間より生産性が高くなり、ほぼすべてを自律的にこなすようになる。人間向けの新しい知識労働タスクはほとんど生まれない。年間GDP成長率は15%に達し、経済規模は4.5年ごとに倍増する。一方で知識労働に従事できる労働者は大きく減少し、失業率は通常の景気後退期を上回る17.9%まで上昇、労働分配率もGDPの60%から45%に低下すると試算されている。

CEO自身の警告との食い違い

このモデルが注目されているのは、Anthropic CEOのDario Amodei氏自身が過去に示した警告と、モデルの位置づけが食い違っている点だ。Amodei氏は2025年5月、「エントリーレベルのオフィス職の最大50%が2030年までに消滅し、失業率が10〜20%に達する可能性がある」と発言していた。この数字は今回のモデルの「極端な変化」シナリオに近いが、Anthropic自身のモデルではこのシナリオが3つの中で最も起こりにくいものとして位置づけられている。

つまり、自社CEOが最も危機感を持って語ってきた未来予測を、自社の経済モデルが「起こる可能性の低い外れ値」として再配置する構図になっている。

読者への影響

AI企業が自ら雇用への影響を定量化し、しかも自社トップの発言より慎重な見通しを示した点は珍しい。知識労働に従事するビジネスパーソンにとっては、「AIによる失業」がどの程度現実的なリスクなのかを考えるうえで、業界内部からの一つの参照点になる。特にプログラマーやコールセンター業務など、AIによる代替が進みやすい職種では、電気技術者や看護師など人手不足が続く職種への転換が現実的な選択肢として挙げられている点も見逃せない。