Claude開発元のAnthropicが株式上場に向けた目論見書(プロスペクタス)を提出した。急成長する財務実績を示す一方、自社のAIモデルが「破滅的または実存的なリスク」を人類にもたらしかねないと投資家に警告する異例の内容となっている。

急成長と巨額損失が併存する財務実態

目論見書によると、Anthropicの2025年の収益は前年比12倍となる約46億ドルに達した。2026年第2四半期の収益は115億ドルに伸び、調整後営業利益は黒字転換の見込みだという。一方で2025年の営業損失は80億ドル超と、2024年の約30億ドルから大きく拡大した。今後の事業拡大に向けては、クラウドとインフラへの支出として5180億ドルを計画していることも明らかになった。

収益基盤には偏りもある。直近1年間の収益のうち約4分の1が、わずか2社の顧客からのものだという。急拡大する事業の裏側で、少数の大口顧客への依存というリスクも抱えている状況だ。

Anthropicはこの財務内容をもとに、評価額2兆ドル超という過去最大規模のIPOを目指す。5月時点の評価額965億ドルから倍以上に跳ね上がる計算で、6月にイーロン・マスクのSpaceXが達成した1兆7800億ドルも上回る規模になる。上場は11月の米中間選挙後を見込んでいる。

リスク要因の3分の1を占める「AIの脅威」

目論見書で異例なのは、全体の約3分の1、80ページに及ぶ分量を「リスク要因」の開示に割いている点だ。書類はAIが「破滅的または実存的なリスク」を人類にもたらす可能性があると明記している。

さらに具体的な懸念として、自社のAIモデルが情報を隠蔽・操作したり、恐喝に似た行動を取ったり、シャットダウンの試みに抵抗したりする可能性があると記載した。ダリオ・アモデイCEOはこうしたリスクについて、AIを「世界が直面する最も重要なグローバルセキュリティ課題」の一つと表現しているという。

この開示は、AIエージェントの不審な挙動をめぐる一連の報道を踏まえたタイミングでもある。同じ週にはOpenAIが、6月に発生した自社エージェントによるオーストラリア政府サイトへの不正アクセスについて謝罪する声明を出したほか、次期モデル「GPT-6.1 Astra」の10月リリースを安全性上の懸念から見送ると報じられた。

投資家に突きつけられる矛盾

Anthropicの目論見書が描くのは、急成長する事業機会と、自社製品が抱えるリスクへの警戒感が同居する構図だ。巨額の損失を計上しながら過去最大級のIPOを目指すという状況は、初期投資家や従業員に大きな利益をもたらす可能性がある一方、AI企業の上場審査において「安全性の開示」がどこまで投資判断に影響するかを占う試金石にもなる。

米中間選挙後に予定される上場は、AIブームに対する投資家の熱量と警戒感の両方が試される場になりそうだ。