米国がASML EUV機器の中国流出を警告、オランダメーカーは強く否定
米商務長官がASMLの最先端EUV露光装置が中国に流入した可能性を指摘。ASMLは「中国にEUV機器は存在したことがない」と強く反論。米国の対中AI戦略の中核となる半導体製造装置を巡る地政学的緊張が高まる。
米国の商務省がASML(オランダの半導体製造装置大手)の最先端EUV露光装置が中国に流入した可能性を警告し、地政学的な緊張が急速に高まっています。同社は疑惑を強く否定していますが、この対立は米国の対中AI抑制戦略の最重要課題を浮き彫りにしています。
疑われている「世界唯一の装置」
問題となっているのは、ASML製のEUV(極紫外線)リソグラフィ装置です。これは最先端の半導体を製造するうえで世界唯一の必須装置。NVIDIA、Apple、AMDといった米国の主要テック企業のチップはすべてこのEUV装置で製造されており、その流出は米国のAI競争力に直結します。
ASML独占のEUV装置は約20年の開発期間を要しており、世界でも追従企業がありません。バスほどの大きさで数百のサプライヤーから部品を調達・組立する複雑性のため、簡単には複製できない高度な技術資産です。
米国の警告とASMLの反論
Lutnick商務長官はEUV関連機器が中国に流入した可能性を警告しましたが、証拠の詳細は公開していません。これに対してASMLは声明で「中国にEUV機器は存在したことがない。全出荷機器を追跡可能」と強く反論。同社は機密情報の内部隔離体制を実施し、中国への流出を防止していると主張しています。
商業的な観点からも、ASML経営幹部は流出の可能性を低いと指摘。同社の2026年収入の約20%は既認可の中国向け旧型装置販売から得ており、最先端EUV装置の流出は自社の長期的なビジネスと矛盾するというロジックです。
政治的複雑性が深まる背景
この紛争の背景には複数の利害関係者が存在します。米商務省はASML競合企業のxLightやSubstrateに投資を進めており、ASMLの規制強化は競合社への利益になります。また米国議会では対ASML包括規制法案も進行中で、EUV装置全面禁止を提案する議員も出始めました。
米国がこの時期に警告を発した理由は、中国のAI企業が北米グレードのチップへのアクセスを切られる中、半導体の自給能力を高めようとしているからです。EUVの流出は、米国が3~5年かけて築いた「対中AI技術封鎖」を一気に崩壊させかねない事案として扱われています。
地政学的な分岐点
この対立は単なる輸出管理問題ではなく、米国、EU、オランダ、そして中国を巻き込んだ地政学的な分岐点に差し掛かっています。オランダはEU加盟国でありながらNATO同盟国でもあり、米国との関係維持が求められる立場です。一方でASMLはオランダの主要企業であり、欧州全体の戦略的資産でもあります。
今後、米国がどの程度の圧力をかけ、ASMLがどう対応するかで、半導体製造の地政学的な分断がさらに進むことになります。