EUのサイバーセキュリティ機関ENISA(欧州連合サイバーセキュリティ機関)が、Anthropicの「Mythos 5」とOpenAIの「GPT-6 Astra」へのアクセスを獲得し、テストを開始した。欧州委員会のトーマス・レニエ報道官は「Anthropicとの建設的な協議の結果、ENISAがMythos 5へのアクセスを許可され、現在テストを実施している」と発表した。Mythos 5の一般公開から約3か月、EU側の要請開始からも3か月以上を経ての実現となる。

なぜ3か月も遅れたのか

Mythos 5はサイバー脆弱性を高速に特定・悪用できる能力を持つとされ、Anthropicは米政府と連携する「Project Glasswing」の枠組みで、審査を通過した約200の組織にのみアクセスを限定してきた。さらに米政府はMythos 5の輸出を規制し、米国外にいるAnthropic社員本人でさえアクセスできない制限を課していた。この輸出規制が、信頼できるはずのパートナーであるEUを技術的に差別する形になっているとの懸念や、米国が重要技術に対して事実上の「キルスイッチ」を握っているのではないかとの不安を欧州側に生んでいたという。

EU AI法が交渉のてこに

Euronewsの報道によれば、欧州委員会がEU AI法に基づき持つ規制権限が、Anthropicの方針転換を後押しした可能性がある。AI企業にとって、法執行手続きで利用されかねない情報を進んで開示するインセンティブは本来小さいが、EU AI法の執行権限を握る欧州委員会との関係を考慮せざるを得なかったとみられる。ENISAは今回、GPT-6 Astraにも同時にアクセスを得ており、OpenAIの「GPT-5.6-Cyber」に続く2例目のOpenAIモデルへのアクセスとなる。なお、ENISAが得たのはMythos 5であり、既にリリースされている最新版の「Mythos 5.1」へのアクセスはまだ許可されていない。

読者への影響

今回の一件は、フロンティアAIモデルの安全性テストが一企業や一国の裁量に委ねられている現状の脆弱性を浮き彫りにした。ENISAはMythos 5とGPT-6 Astraの二重利用リスク(サイバー攻撃にも防御にも使える性質)を評価し、EUレベルの政策議論に反映させる方針だ。AI企業の先端モデルが国境を越えてどこまで検証可能かという問題は、今後の規制当局とAI企業の力関係を占ううえで注視すべき論点になる。