カリフォルニア州モラガの半導体スタートアップKepler Computingが、強誘電体メモリを計算ロジックチップの上に3D積層する新しいチップ設計を発表した。同社によると、行列計算の速度は従来型のSRAMやDRAMと比べて15〜20倍に高速化し、消費電力も大幅に削減できるという。この技術は今後1〜2年で深刻化するとみられるAIメモリ不足の解決策として注目されている。

何が新しいのか

Kepler Computingの技術の核は、酸化ハフニウムジルコニウムなどを用いた強誘電体材料の結晶の分極状態にデータを保存する「強誘電体メモリ(FeRAM)」だ。強誘電体トランジスタはAI推論で使う重みデータをメモリセル自体に保持し、掛け算と足し算(積和演算)をメモリ内で直接実行できるため、プロセッサとメモリの間でデータを行き来させる従来型アーキテクチャの根本的なボトルネック(フォン・ノイマン・ボトルネック)を回避できるとしている。

同社は2018年の創業から8年間、35種類の材料配合を試行錯誤した末にこの強誘電体複合材料にたどり着いたとしており、2026年4月には査読済み論文で既存のCMOS製造プロセスでの量産が可能であることを実証済みだとする。

米政府も資金支援

Kepler Computingの技術が注目を集める背景には、AI業界を悩ませるメモリ不足がある。DRAM価格は2026年第1四半期に前年から倍増し、高帯域幅メモリ(HBM)は2027〜2028年まで供給が逼迫する見通しだ。米商務省は2026年7月29日、CHIPS法に基づく研究開発支援として7社に総額8億7400万ドルを配分する意向書を発表し、Kepler Computingにはこのうち最大2億4500万ドルが割り当てられる。政府は支援の条件として各社の株式の一部を取得する方針も示している。

同社はこれまでにAMD VenturesやBaillie Gifford等から累計6億6000万ドル以上を調達し、2025年半ばに完了したシリーズDラウンド(約3億9100万ドル)を経て評価額は約19億ドルに達している。

AI業界への影響

現時点でKepler Computingの製品はまだステルス段階にあり、実際のチップとして量産・搭載されるまでには時間がかかるとみられる。ただし、GPUの計算性能向上に対してメモリ帯域幅の伸びが追いついていない「メモリウォール」問題は、AIモデルの学習・推論コストを押し上げる要因として業界全体の課題になっている。強誘電体メモリのような新アーキテクチャが実用化されれば、データセンターの消費電力やAI推論コストの低減につながる可能性があり、NVIDIAやAMDなど既存の半導体大手の設計にも影響を与えうる動きだ。