トランプ政権が、ニューヨーク・タイムズがOpenAIを相手取って起こした著作権侵害訴訟に、20ページに及ぶ法廷意見書を提出した。政権はAIモデルの訓練における著作権資料の無許可利用を、著作権法上の「フェアユース(公正利用)」として擁護する立場を明確にした。

「変革的利用」としてAI訓練を正当化

意見書で政権は、大規模言語モデルの開発における著作権資料の利用は「変革的」であり、権利者の許可なく行うことは正当だと主張している。あわせて、「米国は競争力のある強固なAI産業を発展させ、AI利用の実務と手続きにおいてグローバル基準を設定することに強い利益を有する」と述べ、AI業界に対する厳格な規制がアメリカの経済成長と繁栄を阻害しかねないと警告した。

これは政府がAI企業側の法解釈を後押しする明確な意思表示であり、行政府が個別の著作権訴訟に踏み込んで一方の当事者を支持する異例の対応といえる。

Anthropicの15億ドル和解という前例

今回の訴訟の背景には、AI企業と著作権者の対立が既に大きな金銭的決着を見た前例がある。Anthropicは2025年、著作権侵害を巡る集団訴訟で15億ドルの和解金を支払うことに合意した。この和解は、AI企業が著作権侵害のリスクを裁判で争うよりも和解で解決する選択肢があることを業界に示した一方、フェアユースの法的な位置づけ自体は決着していなかった。

ニューヨーク・タイムズとOpenAIの訴訟は、この論点に司法判断を求める主要な係争の一つであり、今回の政府意見書はその行方を左右しうる材料となる。

業界全体の訓練手法に関わる分岐点

フェアユースの解釈は、OpenAIだけでなくAI業界全体の訓練データ利用の適法性を左右する論点だ。政府がAI企業側の主張を後押しする形で意見書を提出したことで、今後の同種訴訟における判例形成に一定の影響を与える可能性がある。

一方で、法廷意見書はあくまで裁判所の判断を助けるための参考意見であり、最終的な法的拘束力を持つのは裁判所の判決そのものだ。ニューヨーク・タイムズ側がこの政府見解にどう反論するか、そして裁判所がフェアユースの主張をどこまで認めるかが、今後のAI業界の訓練データ調達のあり方を大きく規定することになる。

アップデート:「作家がヘミングウェイを学ぶのと同じ」政権が持ち出した比喩と、著作権局側の反論(2026-09-04)

意見書の詳細が明らかになり、政権の論理構成がより鮮明になった。政府は訓練と出力を法的に区別すべきだと強調し、「訓練中には著作物全体がコピーされるが、それが公開されることはなく、生成される出力は原作との実質的な類似性を欠くことが多い」と主張している。

この主張を補強するため、政権は作家ジョーン・ディディオンが学習目的でアーネスト・ヘミングウェイの作品を書き写していた逸話を引用し、学習プロセスとその後の創作活動を切り離さずに一体として扱うことには無理があると指摘した。

これに対し、著作権局は「規模」の違いを問題視している。個人が学習目的で行う模写と、数十億ドル規模の企業が競合製品を大量生産するために行う複製とは同列に扱えないという立場だ。前著作権登録官のシーラ・パールマターも、AIが完全なコピーを人間には不可能な速度と規模で生成することは、従来のフェアユースの枠組みを超えているとの見解を示していた。

政府と著作権局という同じ連邦政府内でも解釈が割れている構図が浮き彫りになっており、この対立が今後の判決や議会での著作権法改正論議にどう影響するかが注目される。