英国政府のAI戦略を設計してきたMatt Clifford氏が、Anthropicに「マネージングディレクター・国際渉外担当」として加わったことが明らかになった。米国以外の政府との関係構築を担う立場で、担当地域には英国、欧州、アジア太平洋、インドが含まれる。政府内で培ったAI政策の知見を持つ人物が退任からわずか半年ほどで大手AI企業に移ったことで、政策と産業界の距離の近さをめぐる「回転ドア」批判が起きている。

Clifford氏の経歴とAnthropicでの役割

Clifford氏はテック投資家で、Keir Starmer首相からAI opportunities adviser(AI機会担当顧問)に任命されたが、2025年に個人的理由でこの無給職を辞任した経緯を持つ。それ以前は2023年のAI Safety Summitで首相代理を務め、英国のAI Security Institute設立や政府のAIアクションプラン起草にも関わってきた人物だ。

Anthropicでは国際渉外の責任者として、米国以外の各国政府との関係構築を主導する。Anthropicの広報担当者は、英国は同社が対応する「数十の政府の一つ」に過ぎないとコメントしており、Clifford氏の役割が英国限定ではなく国際展開全体を見据えたものであることを示している。

Clifford氏は政府支援機関Aria(Advanced Research and Invention Agency)の議長職も継続する予定だが、Anthropicに関連する案件からは身を引くとされている。自身が共同設立したベンチャーキャピタルEntrepreneurs Firstの議長職も引き続き務める。

「回転ドア」への懸念

この人事に対しては、政府とAI企業の癒着を懸念する声が上がっている。キャンペーン団体Unlock DemocracyのCEOであるTom Brake氏は、「政府内で得た、AIのような機微な政策に関する広範な知識を、政府を離れてすぐに民間企業へ持ち込むことは、その企業に大きな優位性を与える」と指摘した。

上院議員のBeeban Kidron卿は「より独立した政治」を求めており、下院議員のChi Onwurah氏もClifford氏の政府での貢献を認めつつ、短期間で政府を離れた後に「グローバルなAIプレイヤー」へ移籍したことは「懸念事項」だと述べている。

業界への影響

Clifford氏の移籍は、AI政策の立案に深く関わった人物がそのまま業界側に転じる事例として、政府とAI企業の関係性を改めて問い直す契機になっている。AI規制の枠組み作りに関わった当事者が規制対象企業の要職に就くケースは、規制の実効性や中立性に対する信頼にも影響しうる。Anthropicにとっては、各国政府とのパイプを持つ人材を得たことで、国際的な政策対応力を強化する狙いがあるとみられる。

アップデート:Aria議長を辞任、国会議員の批判受け

Clifford氏は、政府支援機関Aria(Advanced Research and Invention Agency)の議長職についても辞任することを表明した。下院科学・イノベーション・技術委員会の委員長を務める労働党のChi Onwurah議員が「明確な利益相反」だとしてAI担当大臣のKanishka Narayan氏に書簡で懸念を伝えたことを受けた対応だ。

Clifford氏は「Anthropicでの新たな役職がAriaの重要な活動の妨げにならないようにするため」辞任を決めたと表明し、11月6日まで「利益相反に対する適切な安全策を講じたうえで」職にとどまるとした。Onwurah議員は辞任を歓迎する一方、「なぜこの状況が生じたのか、どのような利益相反の評価が行われたのか、Ariaのガバナンスへの信頼を守るためにどんな安全策があるのか」という疑問は残ると指摘している。

超党派の上院議員でAI政策の批判者として知られるBeeban Kidron氏も辞任を歓迎し、「政府への信頼を取り戻すには、テック業界の利害と市民・国家の利害の間に明確な一線を引く必要がある」と述べた。

Clifford氏のケースは、政府とAI企業の間の「回転ドア」問題を改めて浮き彫りにした。元首相のRishi Sunak氏はAnthropicとMicrosoftで職を得ており、元財務相のGeorge Osborne氏もOpenAIで働いている。2025年までMetaで要職に就いていたNick Clegg氏も同様の例だ。奇しくも同じ週、AI研究の第一人者Geoffrey Hinton氏は、超知能(superintelligence)の開発を禁止する議員提出法案を支持する声明を発表し、「人間より賢いAIへの制御を失えば、人類滅亡につながりかねない」と警告している。