AIデータセンター建設で説明責任が空洞化、NY火災でAnthropicやGoogleの関与も浮上
ニューヨーク州のAIデータセンターで発生した火災を機に、TeraWulf・Fluidstack・Google・Anthropicが絡む複雑な契約構造の中で誰が安全や環境への責任を負うのかが不透明になっている実態が明らかになった。
ニューヨーク州サマセットにあるAIデータセンター「Lake Mariner」で今年6月に発生した火災は、地元消防が作動する火災報知器も消火設備も見つけられず、安全データシートは焼失したとされるという、ずさんな安全管理の実態を露呈した。この事故を機に技術メディアArs Technicaが行った取材で、施設の運営に関わるTeraWulf・Fluidstack・Google・Anthropicの間で安全・環境・雇用に関する責任の所在が極めて曖昧になっている構造が明らかになった。
複数企業が絡む32億ドル規模の施設
Lake Mariner は旧炭鉱跡地に建設された32億ドル規模のAIデータセンターで、ニューヨーク州最大級のAI向け施設の一つだ。土地はTeraWulfのCEOが所有する会社からTeraWulfがリースしており、施設の運営は英国のAI企業Fluidstackが担当する。Googleは将来的に14%の株式取得権(ワラント)を保有し、Fluidstackのリース料支払いを保証している。そしてAnthropicは、この施設が処理する計算需要の供給先の一社だ。
火災当日、Barker消防署のSteve Matisz署長は「何も分からない状態で」建物に突入したと語った。消防隊が法的に閲覧できるはずの安全データシートは火災で失われたとされ、現場には消火栓3基が機能しない状態で残されていた。取材時点でも消火栓の未修理状態は続いているという。
誰が何に責任を持つのか、契約ごとに異なる
TeraWulfはArs Technicaの取材に対し、「施設の運用上の安全と緊急対応」に責任を持つと説明し、火災後にKnoxボックスの設置や消火栓の追加、安全データシートの携行キットを整備したと述べた。しかし現地の消防署長は、消火栓は「乾いたまま」で作業が進んでいないと証言しており、企業側の説明と現場の実態には食い違いがある。
Anthropicは2026年2月、自社のデータセンターが原因で消費者の電気料金が上昇した場合、送電網インフラ費用を含めて全額を負担すると公約しており、Lake Mariner もこの対象に含まれる。ただし、この公約は電気料金に関するものに限られ、騒音やクリーンエネルギー利用など他の約束が守られているかは対象外だ。Anthropicの事情に詳しい関係者は、リース契約の相手であるFluidstackやTeraWulfのクリーンエネルギー達成状況を検証する仕組みを持たず、そもそも確認を求めたことがあるかも把握していないと述べている。対照的に、Anthropicが7月にTeraWulfと直接20年・190億ドルで契約したケンタッキー州の施設では、FluidstackもGoogleの保証も介さない直接契約になっており、同じAnthropicでも施設ごとに関与の深さが大きく異なる。
雇用・エネルギーの公約にも食い違い
TeraWulfは2019年の電力優遇申請時、この施設で165人の恒久雇用と8500万ドルの設備投資を約束していたが、2024年の計画委員会向け資料では、フル稼働時点でも常勤雇用は35〜40人にとどまるとされている。ニューヨーク州のKathy Hochul知事は7月、大規模データセンターの新規許可を1年間停止する大統領令に署名し、「これほどの規模の投資と電力需要にもかかわらず、データセンターは大きな長期雇用を生んでいない」と指摘した。
クリーンエネルギーの表現も変化している。TeraWulfの2024年のCSRレポートはLake Marinerを「95%ゼロカーボン電力」で稼働すると説明していたが、2026年4月に取締役会承認を得た最新の持続可能性方針では「ゼロカーボン」という単独表現は使われず、常に「低炭素」と併記される形に変わった。ただしTeraWulfの担当者は、この電力の出所は地域送電網全体の電源構成に基づくものであり、特定の電源との契約ではないと説明しており、Google・Anthropicを含む関係者の誰も、実際にどれだけのクリーン電力が使われているかを検証する手段を持たない状態だという。
業界全体に共通する構図
ニューヨーク州議会は6月、環境影響評価や労働基準、地域社会への還元を義務付ける包括法案を可決したが、3か月経った時点でも知事は署名しておらず、Hochul知事自身が発した執行命令もLake Marinerのような既に許可済みの施設には適用されない。データセンターの建設ラッシュが加速する一方で、安全・雇用・環境をめぐる公約の実効性を検証する仕組みは業界全体で整っておらず、規制や情報開示の枠組みが実態に追いついていない状況が続いている。