Anthropic の Claude Mythos Preview モデルが、インターネット通信を支える暗号アルゴリズムの脆弱性を発見した。後量子署名スキーム HAWK と、広く使用される対称暗号化標準 AES に対する新しい攻撃を検出したもので、人間の暗号研究者が数年間見落としていた弱点を AI が特定した形となる。

ポスト量子暗号 HAWK に改善された攻撃

HAWK は NIST による後量子暗号標準化競争の候補の一つであり、2034 年以降にポスト量子暗号標準として採用される可能性が高い。Claude Mythos は HAWK における「改善された攻撃」を開発し、従来検出されていなかった数学的対称性を利用した手法を明らかにした。

この発見に要した時間は 60 時間、API コストは約 10 万ドル。同じ規模の研究を人間の暗号専門家が実施する場合、数ヶ月から数年を要することが通例である。NIST 標準化プロセスに参加していた複数の研究グループも、このような攻撃の存在を把握していなかった。

AES-128 縮小版への「Möbius Bridge」攻撃

さらに Claude Mythos は、世界で最も広く使用される対称暗号化標準 AES-128 の縮小版(7 ラウンドのうち 7 ラウンド)に対して、「Möbius Bridge」と呼ばれる新しい指紋認証手法を開発した。この手法により、従来の最良攻撃と比べて 200~800 倍の改善を実現している。

AES-128 の完全版(10 ラウンド)への実用的な脅威にはまだ至っていないが、暗号アルゴリズムの基本設計に潜在する弱点をプロトタイプレベルで示す形となった。研究期間は 3 日間、API コストは約 10 万ドル(約 10 億トークン生成)で、人間の暗号チームが参加せず AI が主導的に実施された。

実運用への直接的な影響は限定的

Anthropic は「現在使用中のシステムに直接的な影響はない」と声明している。HAWK は標準化過程の候補段階であり、2034 年以降の採用が見込まれている段階で、現在のインターネット通信を守っている既存暗号ライブラリには影響しない。AES 攻撃についても、縮小版の理論的な弱点の指摘であり、運用中の実システムを脅かすものではない。

Anthropic は米国政府および業界パートナーと開示調整を実施し、HAWK の脆弱性について事前共有した。Claude Mythos Preview は引き続き限定アクセス形式で提供され、セキュリティ専門家との協業を進める方針である。

業界への意味

この発見は、AI が暗号学研究の最前線で人間の能力を補完していることを示す実例となった。従来なら数年要する脆弱性発見が数日で可能になるということは、防御側と攻撃側の双方に影響を及ぼす。特にポスト量子暗号のような新しい基準の開発段階では、標準化される前に多数の弱点が検出される可能性が高まり、より堅牢な暗号基盤の構築につながる可能性がある一方で、高度な AI を持つ主体による攻撃リスクも増加することを意味する。