Anthropicがサンフランシスコ湾岸地域に「ウェットラボ」と呼ばれる物理的な実験施設を構え、Claudeを活用した生物学実験を実際に行っていることが明らかになった。同社の生命科学部門トップEric Kauderer-Abrams氏は「生物学の最終的な検証は、今もこれからしばらくの間も実験室での作業になる」と述べ、コンピュータ上のシミュレーションだけでは完結しない領域にAI企業として踏み込む姿勢を示した。

CoefficientBio買収が土台に

このラボは、Anthropicが2026年4月に約4億ドル(株式)で買収したステルス期のAIバイオテック企業CoefficientBioを土台にしている。一般的なバイオテック企業と同様、社内での研究に加えて外部パートナーとの協業も進めており、Novo Nordisk、ロシュ傘下のGenentech、Bristol-Myers Squibb(3万人の従業員がClaudeにアクセス可能)など大手製薬企業との連携も明らかになっている。取締役会にはNovartis前CEOのVas Narasimhan氏が加わり、業界との結びつきをさらに強めた。

焦点は創薬ではなく基礎研究

Anthropicはラボの具体的な研究内容を明らかにしていないものの、主眼は医薬品そのものの開発ではなく基礎生物学研究にあるとしている。Kauderer-Abrams氏は、既存の製薬企業が採算性の観点から手を出しにくい前臨床段階の研究領域を対象にすると説明した。臨床試験は現時点で実施しておらず、「医薬品を市場に投入する製薬企業と競合しない」との立場を強調している。

同社はあわせて、生命科学の専門家や組織向けに「Life Sciences Verification Program」を立ち上げた。審査と倫理的な監督を経た認定ユーザーに対し、通常は制限されている創薬や臨床開発などの用途でMythos・Opus・Sonnetモデルへのアクセスを提供する仕組みで、Claudeはすでに60以上の科学データベースに接続する「Claude Science」も備えている。

業界への意味

AI企業が計算資源の提供にとどまらず、自ら物理的な実験室を運営する動きは珍しい。Anthropicはこれまでも安全性研究の文脈でバイオリスクへの懸念を表明してきた一方、今回のラボ開設はAIによる生物学的発見を自社で検証・実証する体制づくりとも言える。製薬業界とは競合しないという姿勢を強調しつつ、希少疾患のような市場性の薄い領域からAIと実験科学の融合を進める狙いがうかがえる。