Googleは、AIデータセンターを軌道上に配置し太陽光で稼働させる構想「Project Suncatcher」の実験衛星「MVP」を、2026年10月1日にSpaceXのFalcon 9ロケットで打ち上げる。衛星はPlanet Labsが製造・試験を担当した冷蔵庫サイズの試験機で、宇宙空間でのAI計算基盤の実現可能性を検証する第一歩となる。

太陽光発電衛星群でAI計算をまかなう構想

Project Suncatcherは、薄明薄暮軌道(dawn-dusk sun-synchronous orbit)と呼ばれる、常時太陽光を受けられる高度650kmの軌道上に、TPU(Tensor Processing Unit)を搭載した衛星群を配置する構想だ。Google Researchが2025年11月に公表した設計では、81基の衛星を約100〜200m間隔で編隊飛行させ、自由空間光学リンクで相互接続する計画を示していた。衛星間通信では、密集波長分割多重化(DWDM)と空間多重化を組み合わせ、数十テラビット毎秒級の帯域幅を目指すとしている。ベンチスケールの実証実験では、単一のトランシーバーペアで双方向800Gbps(合計1.6Tbps)の伝送に成功したという。

技術的なハードルと打ち上げコストの壁

宇宙空間でのAI計算には、地上のデータセンターにはない課題が伴う。冷却用の大気が存在しないため放熱の設計が難しく、宇宙放射線によるチップ損傷のリスクもある。GoogleがTrillium v6e世代のTPUに使う高帯域幅メモリ(HBM)を検証したところ、2krad(Si)の放射線量で異常が発生し始めたが、これは5年間の想定被ばく線量(約750rad(Si))の約3倍に相当する水準であり、実用上は許容範囲との判断を示している。

一方で、Google幹部のトラビス・ビールズ氏は、地上の1ギガワット級データセンターに匹敵する計算能力を軌道上で実現するには約1万基の衛星が必要になると見積もる。経済的に成立させるには、打ち上げコストをキログラム当たり200ドル程度まで下げる必要があるとされ、Google Researchは2030年代半ばにこの水準に到達する可能性を示唆している。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は、軌道上データセンターが地上施設よりコスト面で優位に立つまで最大20年かかるとの見方を示しており、実用化にはなお長い時間軸が見込まれる。

早まった打ち上げ計画

Google Researchが昨年11月に公表した当初計画では、Planet社と共同で2027年初頭に2基の実験衛星を打ち上げるとしていた。今回発表された10月1日の打ち上げは、この計画よりも前倒しでの実施となる。Google副社長のジェームズ・マニイカ氏は、軌道上からでも基本的なAIクエリに対応できる計算能力を持たせられると説明しており、まずは小規模な試験機で宇宙特有の環境下での動作実績を積み上げる狙いがある。

電力需要の急増に直面するAIインフラ業界にとって、地上の送電網や土地に依存しない軌道上データセンターは長期的な選択肢の一つとして注目されているが、今回の打ち上げはあくまで実現可能性を探る初期段階の一歩であり、商用規模での稼働には技術・コスト両面で多くの課題が残る。