ドイツの民主主義シンクタンクAgora Digitale Transformationが実施した調査で、EU加盟27カ国の国会議員のうち、女性議員138人が性的なディープフェイク被害を扱うウェブサイトに掲載・言及されていたことが判明した。一方で被害が確認された男性議員はわずか9人にとどまり、研究者の試算では女性議員が標的になる確率は男性の33倍に上るという。

5800人超の議員を横断調査

調査を主導したのは、Agoraのフェローで非営利団体American Sunlight Projectの主任研究員も務めるBenjamin Shultz氏。7月にEU加盟27カ国(欧州議会議員は対象外)の国会議員5800人超の情報をまとめ、独自に構築した検索エンジンを使って、性的な非同意コンテンツを扱う約160のドメインを横断的に調査した。

調査対象となった国のうち、ドイツ、オランダ、イタリア、フランスの議員が最も多く被害を受けており、役職が上位であるほど標的にされやすい傾向も確認されたという。Shultz氏は被害が判明した議員全員に個別に連絡し、コンテンツの削除方法についても助言している。

サイトには氏名・写真・「脱がせる」ツールへの直リンクも

調査対象のサイトの中には、議員の氏名や公式写真、SNSアカウントなど個人情報を掲載したページが含まれ、一部は身体的特徴を「評価」する項目まで設けていた。こうしたプロフィールの隣には、写真を加工して性的画像を生成する「ヌーディファイア」アプリやサイト自体のツールへのリンクが張られているケースも多い。Shultz氏は「氏名、情報、ツールへの直リンクがすべてそろっており、3クリックで生成できてしまう。実際にコンテンツをホストしているのと同じくらい悪質だ」と指摘する。

民主主義への「萎縮効果」を懸念する声

被害に遭ったオランダの国会議員Suzanne Kröger氏(Progressive Netherlands)は、調査結果について「深く動揺させられる内容だ。女性やジェンダーに基づく政治家への嫌がらせやオンライン上の憎悪という、より大きな潮流の一部だ」と述べ、被害の広がりを訴えた。同じくオランダのSarah Dobbe議員(社会党)も「ディープフェイク動画は政治家を脅すだけでなく、女性を貶めるためにも使われている。被害に遭った女性や少女が迅速に支援を受けられ、コンテンツが速やかに削除される体制が重要だ」と強調する。

複数の研究者や議員は、政治家を狙ったディープフェイク自体は数年前から存在するものの、民主主義の実践を損ない、女性や少女が公的な立場に就くこと自体を思いとどまらせる「萎縮効果」を生みかねないと指摘する。Shultz氏は「これは女性が最初から公職に就くことを妨げ、政治の場から締め出す効果がある。心理的な被害だけでなく、政界を退いた後のキャリアにも評判上の損害を及ぼす証拠は数多くある」と述べている。

拡大するディープフェイクの供給網

生成AI技術の高度化に伴い、ディープフェイクを作成するツールの入手性は年々高まり、生成物の精度も向上を続けている。今回の調査は著名人ではなく現職の国会議員という「公人」を対象にした点で、被害の裾野の広さを裏付ける資料となる。WIREDは被害の拡大を防ぐため、調査で特定されたサイト名を報道では明かしていない。