米連邦航空局(FAA)が、空域管理を自動化するAIシステム「SMART」(Strategic Management of Airspace, Routes, and Trajectories)を今秋から稼働させる。開発を担うのはボストン拠点のスタートアップAir Space Intelligence(ASI)で、契約規模は12年間で8億7500万ドル(約1300億円)にのぼる。航空交通管制官の慢性的な人員不足という構造的な課題に、AIによる予測と自動化で対応する狙いだ。

クラウド上で交通流を先読みするシステム

SMARTはクラウドベースのプラットフォームで、FAAの既存システムを置き換えるのではなく補強する形で導入される。航空会社のスケジュール、気象情報、空港の収容能力、空域の混雑状況、運用上の制約といった複数のデータを統合的に評価し、交通流を予測したうえで、潜在的な衝突や渋滞の芽を航空機が出発する前の段階で特定する。契約にはSMARTに加えて、FAAの航空交通管制システムコマンドセンターの新たな技術基盤となる「FMDS」(Flow Management Data and Services)も含まれており、両システムは今後12〜24カ月かけて順次展開される計画だ。

この契約は、AI防衛関連の大手Palantirやフランスの防衛企業Thalesとの競争を制して獲得したもので、運輸長官のショーン・ダフィー氏とFAA長官のブライアン・ベッドフォード氏が2026年6月に発表していた。今回9月に改めて報じられたのは、その具体的な展開スケジュールが固まり、初期運用がこの秋にも始まる見通しとなったためだ。

まず首都ワシントンDC圏から展開

SMARTは段階的な展開方針を取っており、まずワシントンDC首都圏の空域から稼働を始め、その後全国の他地域へと拡大していく計画になっている。FAAは同時に管制官の新規採用計画も進めており、AIによる業務効率化と人員増強を両輪で進める姿勢を示している。

背景には、全米の管制塔で慢性化している人員不足がある。管制官1人あたりの負荷が高まるなか、SMARTはワークフロー管理の効率化や飛行ルートの安全な確保、交通運用全体の合理化を支援する位置づけだ。人間の管制官を置き換えるのではなく、判断材料となる予測情報を事前に提供することで、現場の負荷を下げることを目指している。

空の便の遅延に直結する可能性

航空管制は乗客の目に直接触れない領域だが、渋滞や欠航の背景には空域管理の混雑が大きく関わっている。SMARTが狙い通りに機能すれば、出発前の段階で混雑を予測・回避できるようになり、結果として遅延の減少につながる可能性がある。一方で、8億7500万ドルという巨額の予算と12〜24カ月という展開期間を踏まえると、効果が実際の運航データに表れるまでにはなお時間がかかりそうだ。政府機関の基幹インフラにAIが組み込まれる代表事例として、今後の運用実績が注目される。