Salesforceが、営業・マーケティング・カスタマーサポート業務に特化した独自の推論モデル「Koa」を発表した。Nvidiaのオープンウェイト基盤モデル「Nemotron-3-Super-120B」をベースに後処理訓練しており、フロンティアAIラボへの依存を減らしつつ、コスト削減と情報漏洩リスクの低減を両立させる狙いがある。

何が起きたか

Koaは、数学の一般問題を解くような汎用モデルではなく、営業・マーケティング・カスタマーサポートという「具体的な業務タスク」をこなすことに特化して訓練されている。Salesforceの技術文書によれば、訓練には公開データと合成生成データのみを使用し、顧客の実データは一切使っていない。エンタープライズ領域ではSalesforce独自の宣言型言語「Agent Script」を活用し、業務ワークフローの仕様をペルソナ条件付きのマルチターンタスクへと拡張、ツール使用の質に基づいて報酬を与えるシミュレーション環境で訓練している。

技術的な狙い

訓練手法の核となるのは、Group Relative Policy Optimization(GRPO)を用いた仕様駆動型の強化学習だ。汎用のベンチマークで高スコアを狙うのではなく、実際の業務仕様に沿って正しくツールを呼び出せるかどうかを評価軸に据えている。Salesforceはこの手法について、ツール利用・エージェント推論・エンタープライズCRM関連のベンチマークで、ベースとなるNemotronモデルを上回り、有力な独自開発モデルの成績も超えたと説明する一方、OpenAIやAnthropicなど最上位のフロンティアモデルには依然として及ばないとしている。

Salesforceの幹部は、“frontier model providers”への一方的な依存から脱却するため、自社で主権的かつ最先端に近いプリトレーニングモデルを持つ必要があったと説明している。顧客の実データを学習に使わない設計は、エンタープライズ顧客が懸念する情報漏洩リスクを抑えると同時に、トークン消費量の削減によるAI関連コストの圧縮にもつながるという。

既存パートナーシップとの併存

Salesforceは8月にAnthropicとの提携「Claudeforce」を発表しており、Claudeを自社製品の中核に据える戦略も並行して進めている。Koaの投入により、Salesforceは顧客に対して「フロンティアモデルへのルーティング」と「自社特化モデルでの処理」という2つの選択肢を提示する形になる。特定の定型業務ではKoaのような特化モデルでコストを抑え、より複雑な判断が必要な場面ではClaudeなどのフロンティアモデルを使うという使い分けが、エンタープライズAI活用の一つの型として広がる可能性がある。

読者への影響

大手SaaSベンダーが基盤モデル企業への依存を減らす動きは、Salesforceに限らず今後広がる可能性がある。開発者・IT担当者にとっては、汎用のフロンティアモデルと業務特化型モデルをタスクに応じて切り替える設計が、コストと性能のバランスを取る現実的な選択肢として定着していくかどうかが注目点となる。