英国政府が『Sovereign AI Unit』(主権AI部門)を正式に立ち上げ、£500m(約675m ドル)の資金を投じて国内スタートアップの AI 開発を支援する取り組みを発表した。技術大臣 Liz Kendall は「英国の AI 競争力を維持し、ブリティッシュ・ウィナーを応援する」と述べ、米国と中国の AI 競争激化に対抗する国家戦略として位置づけている。

初回投資対象の 7 社

初回支援では、生物医学研究から防衛システムまで多様な分野の企業が選定された。

エクイティ投資(直接出資):

  • Callosum — 複数のチップアーキテクチャを統合する AI インフラプラットフォーム。リアルタイムでワークフロー最適化とシリコン設計を支援する。

スパコンアクセス・R&D サポート(6 社):

  • Prima Mente — 脳疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病)研究向けの生物学的ファウンデーションモデル開発
  • Cosine — 防衛・国家安全保障向けの主権 AI システム
  • Cursive — 実世界デプロイから継続的に学習するエージェント AI
  • Doubleword — 政府環境向けのセキュアな AI 推論インフラ
  • Twig Bio — バイオエンジニアリング・バイオマニュファクチャリング用のファウンデーションモデル
  • Odyssey — 防衛・自律システム向けの世界モデル

支援パッケージの内容

単なる資金投入ではなく、政府がスタートアップに提供する支援は多角的だ。

スパコンアクセス: AI Research Resource(AIRR)を通じた無償の高性能計算環境。各スタートアップは最大 100 万 GPU 時間にアクセス可能。約 30 社がすでにスパコン利用に向けた協議を進めている。

グローバル人材確保: ビザ取得が 1 営業日で決定される優先処理、および 10 件の無料ビザ枠を提供。優秀な研究者・エンジニアの国内獲得が容易になる。

政府調達・投資機会: データアクセス支援、政府調達案件への優先的紹介、および特定企業に対する「先制投資オプション」(Right of First Refusal)を用意。

英国の戦略的背景

英国は長らく金融センターとしての地位を持ち、近年は AI・テクノロジー産業への転換を進めている。しかし OpenAI や Anthropic(米国拠点)による AI モデルの支配力増加に対し、「独立した英国の AI 能力」の必要性が高まってきた。政府は本基金を通じて、防衛・医療・スパコン技術といった国家戦略的に重要な分野に集中投資する方針を示した。

Liz Kendall は発表時に「野心と英国に留まることのバランスを取る必要がない」と述べ、スタートアップ流出の防止を念頭に置いた発言をしている。さらに雇用喪失やサイバーセキュリティ懸念についても「AI による経済成長で相殺できる」との立場を示唆している。

読者への含意

本発表は、欧州・英国における AI 自給戦略の具体化を示すシグナルだ。スパコンアクセス・ビザ優遇・政府調達といった「資本以外の支援」は、純粋な民間 VC では提供できない政府ならではのレバレッジを示している。日本含む他国の政府も同様な施策を検討する可能性が高い。また投資対象が防衛・バイオ・インフラに偏った点は、「汎用 AI(ChatGPT 競争)よりも国家戦略的応用(防衛・医療)を優先する」という政策判断を反映している。